2021年度 第1回事前学習


 

5月14日、Web会議サービスであるZoomを使って勉強会を行いました。「観光立国日本~コロナ禍から観光を救え~」と題して、気仙沼地域戦略理事・事務局長である小松志大様にご講演いただきました。

講師略歴


気仙沼出身。富士通に入社し、調達・物流、経営管理コンサルタントとして従事する。2013年から経済同友会に参画する。その後、富士通を辞めて気仙沼市役所に採用される。三年間産業再生に取り組む中、DMOに関わり続ける。DMOとはDestination Mnagement Organizationの略称であり、一言でいうと観光地域づくり法人である。一年前市役所を辞め、今はDMOの事務局長として働いている。

気仙沼市の概要


宮城県に属する市で、水産業が盛んである。よく釣れる魚は、フカヒレやメカジキ、生ガツオ、サンマ。沿岸部を中心に人口減少が進み、今の人口は約6万人である。

東日本大震災による津波の浸水被害は5%程度だったが、震災当時、その5%の場所に事業所従業員の8割が集中していたため、水産業は大きな打撃を受けた。その影響もあり、気仙沼は建設業にも力を入れる場所となった。震災後、国からの助成金を利用して吊り橋や商業施設、魚市場を新設し、市の活性化を目指して新たな一歩を踏み出した。

何故気仙沼がDMOを行っているのか


 

復興会議において、第二・第三の基幹産業を作ることになり、その一つとして観光に力を入れることになった。気仙沼だけのコンテンツを活用した誘客戦略、水産業と観光業を一体化させるといった目的から、一般社団法人リアス観光創造プラットフォームが設立された。地域でマネジメントするということがいいという結論になり、気仙沼観光推進機構、気仙沼地域戦略が設立された。地域経営において何をしているのかを考えたときに、様々なダブりがある中、気仙沼では観光戦略設計ができていなかった。場当たり的なイベント、観光パンフレットづくりにとどまってしまっていた。そこで、各組織の観光パンフレットやHPなどを統一した。そのことにより、年間アクセス数200万を獲得する。スイスのツェルマットに行き、地域経営の仕組みを見た。ツェルマット観光局がマーケティングを行い、民間事業者と連携して、売上を上げる。そのまま、一定のフィーがツェルマット観光局に集まるようにしていた。連携しながら役割分担。ブルガーゲマインは会社で言う役割決定、中長期戦略を担当する。気仙沼はこれをモデルにDMOを行うことにした。マーケティングを推進できる組織がなかったので、気仙沼地域戦略機構が行う。行政がインフラ整備、商工会議所が人事を、観光業界がエージェント営業を行う。ツェルマットは地域で情報を管理している。これがいいと思った。地域でお客さんをもてなすことができる。日本には個人情報保護法があるため、個人情報を出せない。そこで、気仙沼クルーカードを作って、地域で情報を一元化してマーケティングの仕組みを行う。この経営を行うのは地域における意思決定を行える人。現在クルーカードの会員は三万人。市民、市外が大体半々、売り上げは約6億円である。

コロナの影響


宿泊人数は復興作業員により復興時は多かった。今は観光ビジネスを増やすようにする。コロナ前と比べて17.7%減った。全国的な宿泊者数は49%減ってしまった。国内旅行もコロナによって減ってしまった。その中で18%減に留まったのはすごいことである。山口、福島県は県ごとに見ると減りが少なかった。機会があれば皆様にも調べて頂けたらと思う。

何故気仙沼の減少幅は少なかったのか


 

一つ目の理由は、マーケティングの仕組みができていたからである。抑も、コロナ禍の観光客の半分以上は県内の宿泊だった。宮城県には仙台があるが、仙台から一番遠い距離で県内旅行できるのは気仙沼である。元々気仙沼はマイクロツーリズムの町であった。そのため、ターゲットを明確化することができた。また、クルーカードの活用も大きいと考える。現在はクルーカードを通じて町の経済動向を日時で把握している。気仙沼で初のコロナ感染者が出たことにより、クルーカードの利用が一気に減った。日時で把握できたため、すぐに動けた。その結果、テイクアウト事業を助けるという方針を立てることができた。二つ目の理由は、計画を見直したからである。自粛化の波が来ることを予測しておくことが大切であった。三つ目の理由は、既存顧客を大切にしたことが挙げられる。県内でニーズ調査を行って何をしたいかを聞き、それらを押し出したプロモーションを行い、ファンを大切にした。

具体的に何をしているのか


ターゲットを設定して、何を望んでいるのかをしっかり聞く。そして、ニーズある商品を事業者と一緒に作った後、しっかりと手に届ける。最後に、どうだったか検証する。このようにしてマーケティングのPDCAサイクルをぐるぐる回していく。マーケティングはTest&Runを回すことこそが価値である。

 

皆様へのお願い


クルーカードアプリの登録の登録をして頂きたい。会員登録をすると旬の情報が届く。

日本において少子化は問題か


コロナ後の展望に関して、コロナの状況に合わせて市場は決められてしまうので、マイクロツーリズムを今しなければならない。次は近場の国が来れるようになる。状況を考慮した準備をしておく。いかに既存顧客を大事にできるかが鍵となる。既存顧客の意見に沿ったものを用意して、来てねと言えることが大切。

 

質疑応答


Q1.オリンピック聖火リレーについて、オリンピックがもうすぐ始まるが、なかなか人が集まれない状況で何か政策を考えているか。

A1.仙台が女子サッカーの競技場となっている。インドネシアと関係が深い。正直気仙沼に経済効果があることを想定していない。逆に想定していることは「おかえりモネ」は気仙沼が舞台であるため、それの経済効果があるということである。なので、今はそれを中心に売り出していこうと考えている。因みに、自分はオリンピックはした方がいいと思っている。

 

Q2.気仙沼の減少が少なかったのは、予め計画を練っていたからという側面は大きいですか。

A2.地域のキーパーソンが集まって会合をする場があったということが良かったのかもしれないが、第三者に客観的な評価をしてもらった方がいいと思う。

 

Q3.複数ある観光局をまとめるときに大変だったこと、またその対策はあるか。

A3.既存の観光協会からは嫌われていた。そのため、二年くらい嫌われていたが、商品開発で実績を残し、組んだ方がいいと思わせた。後は、市役所との関係も悪く、出向者は市役所の役員でもあるためやりやすかった。会議所はいまだについてこれないときが多いが苦労しながら、間を取り持っている。良かったことは地域のリーダーとして引っ張ってくれる人がいたこと。

 

Q4.第三の柱は考えているか?

A4.工業である。ICTとかIoTを狙っている。宮城県にはトヨタが来ている。国際リニアコライダーも来ている。こういう機会を狙いたい。企業誘致が大切。新規事業を作ることは大切である。

 

Q5.トライ&エラーが大切と言っていたが、失敗例を教えて頂きたい。

 

A5.空振りした施策としては気仙沼ラウンドワン化構想である。気仙沼からの日帰り圏内に体を動かす施設であるボウリング場、トランポリン施設、バスケの3ON3などがある。そこで、気仙沼ラウンドワン化構想が行けるのではないかということだったが、コロナの影響で施策が全く伝わらなかった。もう一度リベンジしようとは思っている。

 

これからを生きる皆様へのメッセージ


 

インターン生の受け入れなどをしていたのだが、大学進学一年目で学校に行けないという人が今も多いと思う。このような状況の中で、和歌山大学の学生はインターンしながらオンラインで授業を受けるということをしていた。東京一極集中ではない時代になってきたため、ビジネスも分散しつつある。これは、コロナにより東京がやられたら日本が終わるという状況から変化しなければならないと分かった。だから、今地方創生が進んでいる。東京の仕事は気仙沼でもできる。色々とうまく念頭に置きながら大学四年間を学んでいただけたらと思う。後、学んだことは機会があったら教えてね(笑)

所感


 東日本大震災で大打撃を受けた気仙沼がそれを機に観光業に力を入れるようになって成功したという事例から、自分にとって負に作用する現象が起こったとしても、それを良い方向へと持っていくことが可能なのだということを学びました。今もコロナ禍という状況でできないことが多いかもしれませんが、コロナ禍だからこそ見えるものがあるということを心に留めて、今の状況を好転させられるように頑張りたいと思います。

 

文責:加地健