2月12日、国立オリンピック記念青少年総合センターにて「地域交通とまちづくり~次世代モビリティによる移動サービス~」というテーマのもと、小田急電鉄株式会社経営戦略部の乾敬道氏をお招きし、勉強会を行いました。
群馬県高崎市生まれ。東北大学を卒業後、東北大学大学院情報科学研究科で修士課程を修了し、小田急電鉄株式会社に入社。現在は経営戦略部 次世代モビリティチームにおいて、MaaSや自動運転など、新しいテクノロジーで新しい移動体験を生み出す事業の開発に取り組んでいる。
小田急グループは、総計約120kmを誇る鉄道事業を軸に、バス業、不動産業、流通業などを展開している。近年ではそれぞれの事業部門において、小田急本線の複々線化や海老名駅周辺などの沿線開発といった取り組みを行っている。
自動車業界では、ITを利用したアプリの活用や車のIoT化、無人運転の実験成功といった技術革新が日々行われている。小田急電鉄は、長期ビジョン2020の中で未来フィールドというありたい姿を掲げており、その一つに「モビリティ×安心・快適」という領域があり、これからのテクノロジーを活かして、「会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける」、次世代の“モビリティ・ライフ”をまちに生み出すことを目指している。
世の中の変化に目を向けると、少子高齢化における人口減少の中で、移動困難者は増加している。小田急電鉄では、これからの時代に交通事業者が果たすべき社会的使命は大きいと考え、自動運転の実証実験や複数の交通機関の検索・予約などを一括で可能にするMaaS(Mobility as a service)の開発など、先進的なモビリティサービスを提供しようとしている(注:MaaSアプリ「EMot」は2019年10月30日ローンチ済み)。法整備やインフラの再整備など、課題は多くあるものの、パートナー企業と協力しながら試行錯誤を重ねている。その例として、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスや江の島での自動運転の実証実験を行った。
社会は急速に変化しており、未来を確実に見通すことはできない。そういった事業環境においては、個の力が重要になってくるのではないか。各々が、ありたい姿に向かってスピード感を持ってチャレンジしてみること。なにごとも失敗ではなく、経験から学んで次に進めば良いと思う。また、自分でできないことはその分野を得意とする人と協力すること、各個人のパーソナリティーや強みを尊重する姿勢も大切。
Q1.これからの日本の交通はどうなっていくべきでしょうか。
A1.地方部を中心に、様々な事情で車に乗ることができない、かといって鉄道やバスが頻繁に来るわけではない地域にお住まいの方が増えることが予想されます。そのような社会課題に対する一つの考え方として、ドアtoドアに近づいていくという方向があります。具体的には、オンデマンドバスというタクシーとバスを掛け合わせたようなサービスが考案され始めており、小田急でも実証実験を計画しています。
Q2.日本におけるシェアリングエコノミー(シェアサイクル等)は持続可能なモデルなのでしょうか。
A2.一般論として、持続可能にするためには、オペレーションコストを賄う必要があります。事業者はお客様に価値を感じて頂けるサービスを提供するために努力し、お客様はサービスに満足して対価をお支払い頂くという関係性が重要です。そのためには需給が成り立たなければならず、需給を調整する技術や仕組みが必要です。
Q3.MaaSの取り組みなどに関しては、タクシー業界から反発はあるのでしょうか?
A3.現状のタクシー業界は、車はあってもドライバーが不足しており、とても苦しい状態です。配車アプリや需要予測など、新しいテクノロジーでタクシーの運行効率や売上を向上させようという動きもなされており、タクシー業界にもポジティブに受け止めて頂けるようなソリューションが重要です。
Q4.MaaSでは、ライバル社とは競合化(差別化)していくのでしょうか、それとも連携していくのでしょうか。
A4.同業種であってもライバル・競合という関係ではなく、1つの目標に向かって連携していくことが重要です。例えば、今後は、様々な地域にMaaSが出てくると予想していますが、それらが顧客目線で相互に連携していくことが重要だと考えています。
最近、都市部では車を持たない世帯が増えていると聞きます。一方で、都市部を離れた郊外では、交通サービスが縮小し、高齢者など「交通弱者」と呼ばれる人たちが増えています。そこで、モビリティの技術を使うことが、都市部と郊外の双方の課題のソリューションになりうるということを学びました。
ITと交通の融合により日々の生活が便利になるとともに、技術の発展に伴った次世代のモビリティを用いることで、交通もより発展していくのではないかと思います。
今回ご講演いただきました乾敬道様、ありがとうございました。
文責:松成 拓