2月16日、オリンピックセンターにて、「企業のグローバル化~戦える日本企業~」というテーマのもと、デロイト トーマツ コンサルティング執行役員の日置圭介氏をお招きし、勉強会を行いました。
外資系コンサルティングファームなどを経て現職。電機、自動車、IT、小売、エネルギーなど、多業種の日本企業に対して、グローバル組織/機能戦略の構想、実行を支援。日本企業が世界で勝ち抜くためのグローバル競争力・経営力強化に向けた様々な提言活動も推進。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師、日本CFO協会主任研究委員などを勤める。
グローバリゼーションはこれまでもいくつかのフェーズで語られている。いまは、テクノロジーの進化も相俟って以前より進んでいるが、つまるところは「繋がっている」というのがグローバルの本質。繋がっているがゆえに機会が多いように見えるが、実際はそんなに簡単ではない。一方で、繋がっているからこそのリスクは高い。地球の裏側で起こったことがどのように波及するのか読み難くなっている。
各社のビジネスにおいてグローバルが意味するところは様々だが、グローバルカンパニーと呼ばれている企業は、総じてリスクマネジメントに対する感度は高い。
どの業界の企業も、経営計画などでグローバルを掲げている。当然、ビジネスの海外展開はしているが、自社にとってグローバルが本当に何を意味するのか、捉えきれてはいないのではないか。
かつて製造業は生産機能の型を海外に移転するという意味ではグローバルであった。しかし、いま世界中を統合的にマネジメントできているかという観点からグローバルに対応できているという企業はほとんど見られない。些末と思われるかもしれないが、日本企業は、グローバルベースでキャッシュを掴んでいないし、人材についても、どこに何人いてどのようなスペックの人材がいるかを把握できていない。基本的な経営資源ですらこのような状況であるので、なかなか他までグローバル化しない。
グローバルとは一つの世界ではなく、繋がってはいるが多様な世界と考えないといけない。日本企業がJapan as No.1と言われた時代とは前提が変わってきている。難しいのはその成功体験があるので、過去の仕組みから離れられない、壊すことができない。
日本企業には、環境の「認知・認識」のシフト、戦う「場」のシフト、戦う「型」のシフトの3つが必要と考える。
1.「認知・認識」のシフト
世の中は自身の認識よりも早く動いており、多面的な感知、考察が必要である。地図の真ん中に日本を置かず、端の国であることを再認識した上で、世の中の動きを外の目線で(=客観的に)分析する。
2.「場」のシフト
日本は産業化が進んでおり、1つの業種に多くの企業が存在している。様々な業種を持つことは国としての強みであるが、同じような事業を営む企業が多すぎると個社の収益性に響く。今後日本が縮んでいくなかで、この形態は維持が難しい。そこで、企業自身が勝負する事業領域を絞る必要がある。また、国としてもどの産業で世界にプレゼンスを出すのか考える必要がある。
3.「型」のシフト
グローバル企業の経営のあり方を深く学ぶ必要がある。彼らとてかなりの時間を掛けながら経営を熟成させてきている。そのコンテクストを理解することが大事。「トップダウンだから進められる」というステレオタイプな見方は間違っている。また、一部分だけを取り入れる発想ではなく、程度の違いはあれ、トータルで導入することを検討すべき。営む事業はそれぞれであるが、グローバルベースでのマネジメントのあり方には多くの類似性が見られる。
Q1.日本企業と海外企業のグローバル化には違いがありますか。
A1.グローバルという舞台は当然同じですが、日本企業、海外企業問わず展開するビジネスによってその捉え方は異なるでしょう。一方で、グローバルでマネジメントをするという観点からは、基本的にその型に違いはないと思っています。いまいまの日本企業における整備の遅さや認識の甘さはありますが。
Q2.『クールジャパン戦略』のような、日本文化に踏み込んだ政策についての考えをお聞かせください。
A2.差別化という点で、コンテンツビジネスとしては良いと思います。しかし、これだけでは局所的な印象もありますので、そもそも日本をどのようなブランドで世界に見せたいのか、より踏み込んだ議論が必要なのではないでしょうか。
Q3.日置様自身はグローバル人材であると思われますか。また、グローバル人材になるための要素や大学生のうちにしておくべきことを教えてください。
A3.私は、グローバルという言葉やグローバル企業の行動とその原理を理解はしてはいるものの、日々の行動から考えるとグローバル人材とは言えないと思います。人材をグローバル化させることは容易ではありません。できるだけ多くの人材に、複数の地域、事業での経験を積ませるための仕組みが必要になります。そして、その多様性を理解しつつ、グローバルに統合できる人材が経営トップになっていきます。
若者には、リーダーシップと変化への対応力の二点が求められます。従って、これを身につける素養として、自発的にマルチカルチャーな文化に飛び込み、多様な人との接触をしておくことが大事ではないでしょうか。海外に限らず、日本国内でも様々な活動をしている人と交流することも可能だと思います。
Q4.他社やユーザーを巻き込むプラットフォーム企業の成功に必要な要素は何ですか。
A4.要素は多様ではありますが、社会における課題や困り事を適切に感知できること、それを解決するためのアイデアや技術、リレーションなどを保有している、または調達できることなどがあります。そして、これらを解決策やビジネスモデルに組み上げられる、「天才」や「カリスマ」の存在も欠かせないのかもしれません。また、プラットフォームは一夜にして築かれるものではないので、その社会的・技術的価値を理解し、企業活動を支える厳しくも長期的な目線をもった資本家の存在が必要であると言えます。
日頃よく耳にするも、曖昧な認識のまま聞き流していた「グローバル」という言葉は、考えれば考えるほど奥深く、海外と比べグローバルへの対応力が従来から高くない日本人であるからこそ、考えなければならない問題であると感じました。また、「戦略を考える上での三つの要素」は、グローバルな考え方のみならず、日常の様々なことを考える上でも欠かせない要素であると感じました。
今回ご講演いただきました日置圭介様、ありがとうございました。
文責 酒井 真一郎