2015年度 第6回勉強会

待機児童問題と幼児期の空洞化

奥山千鶴子氏(NPO法人びーのびーの理事長)

 10月30日、日吉キャンパスにて「待機児童問題と幼児期の空洞化」というテーマのもと、NPO法人びーのびーの理事長の奥山千鶴子氏をお招きし、勉強会を行いました。

略歴


 男女雇用機会均等法が成立した前年に就職、その後、長男が2歳の時に退職され、専業主婦になる。奥山氏は、専業主婦になると同時に子育ての大変さを強く痛感し、子どもにペースを合わせる生活に慣れるのには時間がかかった。その後、子育て中の親たちと共に「NPO法人びーのびーの」を設立され、現在は理事長として精力的に活動に励んでいる。あわせて、国の子ども・子育て会議委員等を務め、制度作りへの提言等の活動もおこなっている。

専業主婦への支援


 専業主婦になった当時は、子どもをしっかり育てるのが当然であるというような風潮、子育て支援として公費をつぎ込むべき対象なのか自分自身もよくわからなかった。しかし実際には、育児負担を感じるのは、仕事をしている女性よりも在宅の女性というデータが示され、専業主婦の女性は、子育ての全責任を背負うというプレッシャーがあることが強く影響していると感じる。ある自治体では在宅子育て家庭に向けた支援施設を創設するなど、子育て支援に公費を投じる動きも出てきた。このことから、子育て不安や孤立を予防する子育て家庭全体に向けた支援に関する制度作りの必要性を強く実感した。

 

日本の少子高齢化の現状


 現在の日本は約4人に1人が65歳以上であり、年少人口の割合は他の国家と比べ、かなり低い値を示している。さらに、日本の合計特殊出生率を見ると、2014年は1.42であり、この値は江戸時代の八百屋お七にちなんで女児が生まれるのを避けた丙午の年の1.58を下回った平成元年の所謂1.57ショックよりも、低い数値なのである。

20年の変化


 日本人の平均初婚年齢は、1994年は男性が28.5歳、女性が26.2歳であったが、2014年は男性が31.1歳、女性が29.4歳に伸びた。また、第一子出産時の母の年齢も、1995年は27.5歳であったが、2014年は30.6歳に変化している。さらに生涯未婚率(「45〜49歳」「50〜54歳」の2つの層の未婚率の平均を取り、50歳の時点で結婚した人がない人の割合)は、1980年は男性が2.60%、女性が4.45%であったが、2010年は男性が20.14%、女性が10.61%と大きく変化した。これは、結婚に対するハードルが高くなってきていることが原因の一つとして考えられる。そして、ここ20年の間に、専業主婦世帯数は減り、共働き世帯数が増え、非正規雇用の割合は増加した。

子どもを持つことに対するためらい


 2013年の連合による子ども・子育てに関する調査によると、現在子どもがいない人の4人に1人が子どもを欲しくないと回答した。その理由としては、「ちゃんと育てる自信がない」「金銭的な余裕がない」「子どもが苦手」「子育てが大変そう」「自分たちの時間がなくなる」等が挙げられる。

 また、現在の子育て環境には様々な課題が山積みになっている。それは、日本全体としての少子化問題に加え、共働き世帯数が増えたことによる育児と仕事の両立の難しさ、長時間労働、都市部の待機児童問題、放課後児童クラブの不足等が挙げられる。

子ども・子育て支援新制度の目的


 税と社会保障の一体改革として、消費税が8%に上げられた際に、子ども・家庭支援の充実が図られたのである。すなわち、従来は社会保障の対象は年金・医療・介護であったが、そこに新たに子育てが組み込まれ、子ども・子育て支援新制度が始動した。新制度の目的は、教育・保育の一体化、教育・保育を「個人への給付」として保障すること、地域の子育て支援の充実が挙げられ、質の高い学校教育・保育を総合的に提供することが目指されている。そして、新制度の対象は、大きく施設型給付と地域型保育給付に分けられる。施設型給付には、認定こども園、保育所、幼稚園が含まれる。一方、地域型保育給付には、小規模保育(定員6〜19人)、家庭的保育(定員5人以上)、居宅訪問型保育(1対1)、事業所内保育(従業員+一般)が含まれる。地域型保育給付は、一般的に0〜2歳の幼児が対象であり、各々の子どものニーズに合ったきめ細やかな保育が可能であるという利点がある。また、あわせて地域の子ども・子育て支援事業の充実がうたわれている。

「NPO法人びーのびーの」の活動


 NPO法人びーのびーのの活動は、0〜3歳児とその親が一緒に過ごせる場所がほしいという思いで、当事者である親たちが作った菊名西口商店街の約20坪の子育てひろばから始まる。その後、横浜市の委託事業である「港北区地域子育て支援拠点どろっぷ」受託。地域の「幼稚園・保育園ガイド」の制作・出版、2~3歳児むけのグループ保育等を運営、さらに今年4月からは子ども・子育て支援法で新たな事業として創設された小規模保育事業も手がけている。

質疑応答


・小規模保育事業の欠点をどのように改善していこうと考えているのか

 たしかに小規模保育所には園庭がない場合が多いが、この課題は保育所近くの公園や散歩等で解決している。さらに、公園に行くために保育所外に出ることによって、地域の人と接する機会が必然的に発生してくる。そのため、乳幼児が保育所の中のみではなく、地域の中で育つことができる。小規模保育は、家庭的できめ細かい保育ができるというメリットがある。

 

・事業を拡大させていくために、今後どのような活動をされるのか

 私たちは乳幼児とその家庭を対象とした支援活動を中心的に行っているが、その子どもたちが成長していく過程を見据えて活動することが重要だと思っている。そこで今後は、我々とは異なる年代を対象として支援活動を行っている団体と連携を取っていきたいと考えている。また、子育て家庭への支援は、量的にも質的にも十分ではないため、ロビー活動、啓発活動、そして必要な事業を生み出す必要があると考えている。

 

所感

 待機児童問題については、日頃からテレビや新聞等で見聞きしていましたが、実際にその問題について活動されている方からお話を聞くことは初めてでした。また、奥山様は講演会を通して「当事者意識」という言葉を頻繁に使われていましたが、問題解決のためには人任せの態度を改め、当事者意識を持って行動するようにならなければいけないと強く感じました。

 

今回ご講演いただきました奥山様、ありがとうございました。

 

 

 

文責 南部久翔