6月29日、小学校における英語教育の普及・発展を支援する小学校英語指導認定協議会(略称:J-SHINE)理事である松香洋子氏をお招きし、日本における義務教育の在り方、グローバル人材の育成についてご講義いただいきました。
2011年4月より、小学校5,6年生に対して英語教育が必修化された。小学校教育においては、英語はコミュニケーション能力の素地を養うことを目的とし、教科としてではなく、体験活動として導入されている。授業はTT(ティーム・ティーチング)の形式で進行し、指導はすべて英語で行われるのが理想である。安易に日本語を使わないことで、生徒の「わからないことをわかろうとする姿勢」を大切にする必要があるという。
日本と同じくアジアに位置する韓国は、英語教育改革を国家プロジェクトとして打ちだしている。大学の卒業資格取得において英語力に焦点が当てられ、大学受験英語の問題形式が一新された。さらに、小学校における英語教育を義務化した際には、全国の教員を集め研修を行うなど、徹底した姿勢をとっている。一方、今日の日本ではTOEFLやTOEICスコアに見られる英語力の低さ、若者の内向き思考が問題となっているにも拘わらず、政府は韓国のような強制力を発揮出来ていない。
問題解決への提案として、氏は、地域活動、市民活動、日本の人的資源を活かすことの重要性を強調された。 これらを実現するために設立されたのが、氏が理事を務めるJ-SHINEである。 主な事業としては、小学校英語指導者資格の認定、小学校英語活動の普及とその支援、教育の国際交流を促進する教育団体に対する支援などがある。
しかし活動するにあたって、大きな課題も残されていると言う。それは、学校(教育委員会)が民間(教職免許を持たない市民)を受け入れるかということだ。現在、日本の教育現場おいては、教員免許を持つ人にしか、学校で授業を受け持つことが許されていない。教員免許は持たなくとも、生の英語に触れ、英語を話すことができる貴重な人的資源を活かしきれていないのである。
お話の最後に、氏が実際に指導者に伝えている言葉を紹介してくださった。
「この国はどうしようもないね」と自分は文句だけを言い、
行政や政治を批判しながら、何もしない
・・・そして、 確実に社会は劣化し、危機は迫ってくる
若者は言う「大人は口だけ」
・・・だから、自分にできることは全力を挙げてやる!!
Q1. 氏が考える最善の英語指導法はどのようなものか。
A.1 英語教育の目的はpositive attitudeを育てること。先生が一方的に講義をする授業ではなく、発表教育とも呼ばれるTT(ティーム・ティーチング)、ペア活動、グループ活動、ディスカッション、人前でのスピーチ等が最適である。
Q2. 指導要領を作成する側(文部科学省)と実際に指導要領をもとに授業を行う側(教員)の目的意識・問題意識をどう共有すべきか。
A2. 文部科学省は「現場(市町村)が動かない」と口をそろえて言う。市町村は「予算がない」と言う。予算を決める教育委員会の委員は選挙に勝つことを最重要とする。つまり、選挙で委員を選出する国民一人ひとりが教育について問題意識を持ち、意思を表明しなければならない。まずは、若者が選挙に行くことが始まりである。
Q3. 氏が考えるグローバル人材に必要な資質とは何か。
A3. 体力、気力、やる気、サービス精神、言葉を話せるようになろうとする気を持つ者。しかし最重要なのは、しっかりと読み書きができる母語を持つことである。カナダの言語学者カミンズの言葉にもあるように、「言語は氷山」であり、人間の本質として母語を鍛える必要がある。
Q4. 大学入学試験の英語はこのままでも良いのではないか。
A4. 現代においては、学術論文を読むためだけの英語ではなく、国際会議の場で質疑応答や発表ができるスピード感のある英語が求められている。今のままでは、学術論文を読むための遅い英語しかできないが故に、日本が益々世界に置いていかれてしまう。
松香氏自身の豊富な体験をもとにした講義は、日本の英語教育の厳しい現状を訴えるものであった。 氏が若者に大きく抱いていた期待に、私たちはどう応えていくか、今後国を背負っていく世代として当事者意識を持ち、どのように責任を果たしていのかを考える重要な機会となった。 学生からの英語による質疑にも明るく応え、熱く語って下さいました松香洋子様に感謝申し上げます。 ご講義ありがとうございました。
文責:清水絵里子