2016年度 第2回事前学習

労働市場のミスマッチ~働くということ~


 5月20日、日吉キャンパスにて第2回事前学習が行われました。これから3週間かけて学ぶテーマは「労働市場のミスマッチ~働くということ~」です。今回は今西と齋藤によるファシリテーション形式で、本テーマである日本の労働市場の現状について考察しました。

労働とは何か


 「労働市場のミスマッチ」とは、労働市場において、雇用者側の需要と労働者側の供給が釣り合わない状態を指します。私たちが目指す理想社会は、「労働市場における需要と供給がマッチする社会」です。

 また、主観を含む個人レベルでの労働の認識を「働く」、社会全体での労働の共通認識を「労働」と区別して、議論を進めました。ファシリテーターの「労働とは何か」という質問には、「個人と会社で契約を結び、それに応じた賃金を得ること」「労働力を提供する対価として賃金を得ること」などの意見が挙げられました。

働くとは何か


 ファシリテーターの「働くとは何か」という問いには、「生活していくため」「社会や人のため」「やりがい」など、働くということを自分の立場に置き換えた意見が多数挙げられました。中でも、「働く」という漢字を、「人のために動く」「人の重荷になる」と分解し、生き甲斐になる一方、自分自身の負担にもなるという、労働の二面性を漢字から読み解いた非常にユニークな意見も出ました。

労働時間


 労働の現状に目を向けると、ブラック企業、パワハラ、過労死、労働時間、賃金格差など様々な問題があります。

 今回はその中でも、「労働時間」と「賃金格差」の2点に焦点を絞りました。労働時間が増加した原因として、1995年を境に生産年齢人口が減少に転じ、1人当たりの負担が増大したことや、上司が残業を頑張っている証拠として高評価する傾向にあることが考えられます。

賃金格差


 大企業の業種別賃金格差に注目すると、2002年には約2倍だったのに対し、2016年現在は約4倍と賃金格差は大きく広がっています。男女間の就業率格差は、縮まっていますが、依然として約2倍もの差があります。また、生涯年収に至っては、アメリカの女性は男性の生涯年収の約80%を稼ぐのに対し、日本の女性は約50%しか稼げないなど、男女間賃金格差は根強く残っています。高齢者就業率は、単調に減少し続けていましたが、最近は上昇傾向にあります。超高齢社会に突入した日本において、「高齢者を積極的に活用しなければならない」と政府が行動を起こし始めたことが背景にあると考えられます。

労働市場のミスマッチ


 労働市場のミスマッチには業種、条件、性格の3種類のミスマッチがありますが、今回は業種間ミスマッチに注目しました。

 業種間ミスマッチを示す指標として、有効求人倍率があります。有効求人倍率とは、1人に対して仕事の求人がいくつあるかを表した値で、その値が大きいほど労働力不足が深刻な仕事であると言えます。有効求人倍率を業種間別に見てみると、事務職は0.42であるのに対し、建設業は2.97、医療分野では6.6と、業種間における有効求人倍率の差が非常に大きくなっており、日本全体の労働力が上手に分配されていないことが分かります。

働く条件


 個人レベルで「働く」ことを考えたとき、「どのような条件だったら働くのか」について、グループで話し合いました。給料、立地、職場の雰囲気、企業理念など様々な意見が出ましたが、一番の多かったのは「ブラックではないこと」、すなわち、個人の都合に対してある程度の融通が利くことと人間関係が良好なことでした。社会的立場がそれほど高くない学生として、アルバイトをしている私たちならではの意見が多く挙げられ、労働問題を自分のこととして考えていることが伝わってきました。

業種間ミスマッチとは


 なぜ業種間ミスマッチが起きるのかというファシリテーターからの問いに対して、「肉体労働はきつい」、「3K(きつい、危険、汚い)などのイメージ」、「賃金が低い」、「仕事内容と社会的な評価が釣り合わない」などが挙げられました。一方、ファシリテーターは、「就業前の情報共有不足」、「労働者の技能不足」、「雇用者の労働者に対する過度なスキル要求」などが原因であると述べました。

 1点目の「就業前の情報共有不足」は、高卒者の約4割、大卒者の約3割が3年以内に離職しており、その理由は「労働条件」が22%、「賃金条件」が17%を占めており、就業前にしっかりと調べておけば多くが防げるものです。

 2点目の「労働者の技能不足」は、3点目の「雇用者の労働者に対する過度なスキル要求」と表裏一体の関係であり、労働市場の流動化に伴い転職する人が増えたことで、企業が新人教育に対する意義を感じなくなり、人材育成コストの削減に走った結果、新社員を採用する際に最初から多くの技能を求める傾向になったことに由来します。また、そのほかに「生産年齢人口の減少によって、仕事に適任する人を探し出すのが難しくなった」、「休暇、賃金などの待遇差が広がるばかりである」ことが挙げられました。

業種間ミスマッチが引き起こす問題


 介護職では、就業率自体は増加傾向にあるものの、離職率が高く、ベテランがいなくなることで介護業界の知識に精通した人が減少していることが問題となっています。

 また、建築業では、東京オリンピック関連の建築物の建設依頼や、東日本大震災の復旧工事が終了後に仕事がなくなることを懸念し、就職したがらないことが問題となっており、業種間によって異なった問題を抱えていることが分かります。

所感


 今回のテーマを初めて聞いた時には、正直どのようなことを扱うのか分かりませんでした。しかし、事前学習が終わる頃には、自分自身の問題として捉えられるようになっていました。業種間ミスマッチの問題は、業種によってその原因が異なります。私達が、その原因の根底にある問題や、どうすればその業種が自分の職業選択の一つになり得るのかを考え、自分自身の問題に還元してその対策を立てることで、問題解決の糸口が見つかるのではないかと思いました。

 

次回は坂田祐一様をお招きし、ご講演いただきます。                            

 

文責 氏江優希子