2015年度 第6回事前学習

待機児童問題と幼児期の空洞化


 10月23日、日吉キャンパスにて第5回テーマ事前学習が行われました。これから3週間かけて学ぶテーマは「待機児童問題と幼児期の空洞化」です。今回は宮田によるファシリテーション形式で、本テーマについて日本の現状と今後の展望を考察しました。

 以下はその内容です。

待機児童問題


 現在の日本では、保育施設や保育士の不足などによって、待機児童が増加しています。2013年に横浜市が待機児童ゼロを達成するなど、全国各地で問題解決への様々な試みが行われていますが、まだまだ問題は山積みです。

そもそも保育所入所待機児童(本文中では待機児童と呼ぶ)とは、調査日時点において入所申込がされており、入所要件に該当しているが、入所していない子供のことを指しています。入所中ではあるが、第一希望の保育所に入れず転入届を出している児童などは、この待機児童の定義から外されます。そのような潜在的待機児童数も多くいると推測されています。

 また、待機児童の約8割が3歳児未満です。そして待機児童の約8割が首都圏や近畿圏の計7都府県、つまり都市部に集中していることが特徴として挙げられます。

 待機児童問題のひとつの具体的な例に、2014年の中野区役所への異議申し立てがあります。これは、待機児童をもつ母親たちが、児童福祉法第24条に基づき、保育所の増設などの緊急対策を求めた事例です。このように待機児童に関する問題は数多くあります。

保育所と幼稚園


 次に保育所と幼稚園の違いについて、班に分かれてグループディスカッションを行いました。その後全体ディスカッションを通して、まず、それぞれに適応されている法律に着目しました。保育所は児童福祉法第39条に基づいて運営されており、市町村が責任を持つなど、公的システムから成り立っています。一方、幼稚園は学校教育基本法に基づいて運営されており、保育所より教育色が強いことと、公的のみならず私的なシステムからも成り立っていることが言えます。

 また、現行保育制度に着目した説明も行われました。保育所に入所するためには、市町村を通さなくてはなりません。それに対し、幼稚園に入園するためには、直接幼稚園に申請する必要があるのです。    

保育所のニーズの高まり


 1998年頃から、幼稚園入園者数より保育所入所者の数の方が多くなり、保育所数は同年からほぼ変化しないのにもかかわらず、現在も保育所への入所者が増加し続けています。少子化であるにもかかわらず、入所者数が増加するのは一体なぜなのか、班ごとのディスカッションを行いました。その結果、女性の社会進出がすすみ、共働き世帯が増加したことによって、日中に家庭内で子供の世話をしにくくなったという点が指摘されました。これは核家族化との相乗効果で、日中の子育ての難化を促している原因だと考えられます。

 この議題に伴って、自らがどのような保育所や幼稚園に通っていたのかということも、班内で共有し、現在の保育所や幼稚園との比較を行いました。

国政の対応


 不足している保育の受け入れ先増加のために、政府は施設基準や保育士基準など、多方面で規制緩和を行ってきました。その例として、延長保育の実施や短時間保育士の導入、子ども・子育て支援新制度などが挙げられます。

 子ども・子育て支援新制度とは、「子ども・子育て支援法」、「認定こども園法の一部改正」、「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の子ども・子育て関連3法に基づく制度のことをいいます。この制度は無資格者の保育を容認したり、不十分な施設設置基準であったりすることから、保育の質が問題視されています。

保育の量と質を向上させるために


 保育の質の低下は上記の通りであり、量については施設数の不足を指しています。国は施設数の増加を図るものの、保育所の敷地がマンションの1室のみになったり、保育士が2人の保育所ができたりなど、我々サークル員の幼少期の保育施設の姿とは異なった状況が生じています。サークル内では、庭のない保育所は果たして子供の発育に悪影響を及ぼさないのか、保育士が少なくて子供の面倒をきちんと見られるかといった疑問が沸き起こりました。しかし見方を変えると、マンションの1室から公園へ移動する際に、道路の渡り方や交通安全を教えることができたり、少数の保育士だからこそ保護者との密接な関係を気づけたりするメリットもあるでしょう。

 そして、そもそも保育の質とは何なのか。これに対する答えは人それぞれであり、正解はないのかもしれません。    

保育を担う4主体


 最後に、保育を担う4主体である、企業・家庭・地域・制度の、あるべき姿についてディスカッションを行いました。以下がその結果です。

企業…社内に保育施設や幼児一時預かり所を設ける

家庭…クローズドSNSなどのツールを使用する

地域…シルバー保育士の活躍の場を広げる

制度…フリックス制度を活用する

 この他にも様々な意見が出ました。特に、制度は他の3つの主体にも密接に関係しているという発見もありました。

所感


 勿論、中学や高校、大学での教育も重要ですが、それに負けず劣らず幼児教育も大切だと考えられます。幼児期の教育はその人の人格形成に大きく影響します。これから私たちは大人になり、親になり、子供を育てていく世代になります。待機児童問題や幼児教育の問題を他人事とは思わず、これからどのように解決していけるか、真剣に考えていけたら良いなと思います。

 


 今回の事前学習で学んだことをもとに、「勉強会」「リフレクション」を通じて、さらにこのテーマについて理解を深めていきます。

そして次回10月30日、「NPO法人びーのびーの」の奥山千鶴子氏を講師にお迎えし、ご講義いただきます。


文責:水野優香里