2019年度 第1回リフレクション

クルマの歩みと自動運転の可能性


 5月17日、日吉キャンパスにて、第1回テーマである「クルマの歩みと自動運転の可能性」についてディベートを行いました。

論題「日本社会に利益をもたらすために、2030年までに日本政府はレベル 3 (※)以上の自動運転を普及させるべきである。」


 現在、国内外問わず大手自動車メーカーや政府はより高次なレベルの自動運転技術を実現させようとしのぎを削っています。そのような中で、民間ではなく日本政府が主体となって自動運転技術の普及を推進していくことの是非を討論しました。日本政府が介入することの利点や事前に設定された2030年という年月の適正性、自動運転技術そのものの利点が主な争点となりました。以下、肯定側・否定側においてあげられた論点を紹介します。また、否定側が挙げた代替案も掲載します。

 

※「自動運転のレベル分けについて」(1)によると、レベル3は「条件付自動運転」とされ、「システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要」な自動運転のレベルであると提議されています。また、後述のレベル4は「特定条件下における完全自動運転」とされ、「特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施」する自動運転のレベルとされています。

(1)国土交通省「自動運転のレベル分けについて」

<www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf>(最終アクセス 2019 年 6 月 10 日)

 

肯定派


・現在、自動車死亡事故におけるヒューマンエラーが問題となっている。レベル3以上というシステムに依拠した高次段階の自動運転技術であればヒューマンエラーそのものをなくすことができ、事故件数を圧倒的に減少できる。

・自動車産業において、自動運転技術による経済効果は多大なものであると想定されている。また、自動運転技術の普及による二次的産業の出現・普及も経済効果に寄与する。

・過疎地域における交通弱者は車による移動が必須であるが、近年自動車事故による死亡者が後を絶たない。このような地域に自動運転バスなどを導入することで、人が運転するよりも安全で便利な移動手段を確保することができる。

・自動運転技術は、運送トラックなどの長距離ドライバーの負担削減に寄与することが想定される。これにより高度な免許取得が不要となり、人材募集が容易になる。それに伴って女性の参画も容易となり、政府が進める女性ドライバーの増加を促進させる。

否定派


・レベル3・4などという高次段階の自動運転技術にはIoTの搭載が必須であるが、現在の技術ではハッキングに対する脆弱性が残っており、特にレベル4になると日本全体に被害が波及する恐れがある。

・自動運転技術が普及すると、ドライバーという役職そのものの必要性がなくなり大規模な失業者の発生が予想される。

・レベル3・4の自動運転技術の普及には自動運転技術に対応した信号機や標識、道路インフラの整備が必須となる。しかし、現在日本政府は巨額の負債を抱えており、かつ地方自治体は財源が乏しいため、自動運転普及率100%は不可能である。

・IoTを搭載し、ドライバーではなくシステムに依拠して運転する場合、アルゴリズムによっては人命を軽視する選択を取りかねないトロッコ問題が付き纏う。

 

否定派による代替案


・日本政府が主体となり自動運転を普及させるのではなく、民間が主体となり自動運転を普及させる。道路交通法も整備されるなどレベル3実用化が目前であるドイツGAFAを参考にし、IT企業が集中するアメリカや自動運転レベル3を導入した他国から技術を輸入する。また、導入国において起こった問題が日本では起こらないように法整備を進めたり、失業者が社会にもたらす影響を後から確認・検討しながら、問題を解決していく。

・2030年までにレベル 2 の自動運転の普及率を100%にし、レベル 4の自動運転を公用車から試験的に導入していくことを目指す。安全面・行政面での信頼性が確保されてこそ、経済面での利益の最大化が期待できるためであり、自動運転への足掛かりを着実に作っていく。

所感


 自動運転技術は早急により高次なものを普及すべきであり、そのために政府も積極的に介入すべきと考えていましたが、今回のディベートを通じて自動運転はまだまだ問題を孕んでおり、安全面だけでなく、雇用面や倫理面などの諸問題の解決を進めることの重要性を痛感しました。我々は自動運転に対して漠然とした利便性を想定するのではなく、その先にある自動運転の普及した社会を刻銘に思い描く必要性があると感じました。

                        

文責:秋山 諒丞