今回の定例会では、Case Studyや羽田氏の講義を通し深めてきたテーマである「労働市場と働くということ」について、ディベートを実施しました。
論題
「介護と建築の分野の人手不足を2025年までに解決する方策を考える」
2025年には団塊の世代が後期高齢者になり、4人に一人が75歳以上という超高齢化社会に突入すると言われています。これからますます生産世代が減少する中で各業界での人手不足が起こるのではないかと懸念されており、特に土木建築業界と介護業界は人手不足に悩んでいます。そこで今回は、各班で介護業界と土木建築業界それぞれで人手不足を解消する政策を考え、ディベートを行いました。
建築分野に関するディベートでは、以下のような案が出ました。
作業現場のオートメーション化
人手不足の原因は危険な作業環境。事故率の高さと危険物質の悪影響を改善する案として、作業現場のオートメーション化(機械代替)を推進する。生産性の向上による必要な労働者数の削減、事故数の減少による土木建築業のイメージアップを狙う。
建設土木就業者給与時給制
人手不足の原因は低賃金であるための就業不人気。改善策として、給与時給制を導入する。最低時給を1900円(現行の年間の1人当たりの平均労働賃金394万円を技能者の平均労働時間で割ることで換算した時給)とし、さらに技能や経験に基づき昇給制度を設けることで即効的な効果を狙う。
土木建築業界のイメージ改善
人手不足の原因は土木建築業界への「3K(危険、きつい、汚い)」のイメージから求職者が建築業界を忌避する傾向にあること。この現状を打開するため、企業が工業学校の生徒を中心とする若い世代にセミナーや職業訓練を実施する。ある大学が行った調査では土木建築学を学ぶことで業界へのイメージが改善されたとのデータもあり、この政策によって土木建築業に対して肯定的なイメージを持つ若者が増え、就業者アップにつながると考えられる。
労務単価の上昇に比例した賃上げの義務化
人手不足の原因は賃金の低さによる離職率の高さ。現在、公共工事の予定価格の積算に適用する公共工事設計労務単価が引き上げられているが、この引き上げが現場労働者の賃金にそのまま反映されることは少ない。そのため、建築業界に対し労務単価の上昇に比例した現場労働者の賃金増額を義務付けることで建築業界の賃上げを目指す。
「一般土木技術士」資格の新設
人手不足の原因は資格取得のハードルの高さ。土木関連の資格はいずれも専門性が高く取得に時間と金銭が必要となり、それが資格取得の障害となっているため、「一般土木技術士」という比較的簡易で土木業全般に関わる国家資格を新設する。資格取得のハードルが低くなることによって、より多くの人が土木建築に関する資格を取得することが見込まれる。
政府からの補助金支給
人手不足の原因は建築業界労働者の低賃金。そのため、使途を労働者の賃上げに限定した補助金を企業に支給することで、労働者の賃上げを狙う。さらに補助金が賃上げに使用されたかをチェックする体制を整備し、違反があれば罰則も設ける。
新興国からの受注斡旋
人手不足の原因は建築業界労働者の低賃金。そこで、BRICsなどを中心とした新興国のインフラ整備や不動産建築を数多く受注する。これにより外貨による増収が見込まれ、建築業界が好況となることで労働者の賃金も上昇すると考えられる。
請負登録制
人手不足の原因は建築業界労働者の低賃金。そこで、賃金水準の低さを改善するために「請負登録制」を提案する。現在の土木建築業界は発注元から業者、その業務の一部を下請け業者が請け負うという二重三重の構造になっており、その結果として大手のゼネコンが払う賃金が中抜きされ土木作業員の受け取る給料が低くなっているという実態がある。その重層下請構造を解消するために、発注者から依頼を受けたひとつの会社からすべての登録している請負業者に仕事を振り分けて一事業を一元管理するという改革を行い、労働者の賃金アップを狙う。
介護分野に関するディベートでは、以下のような案が出ました。
若者労働組合の設置
人手不足の原因は職場のコミュニケーション不足。介護業界は若い人材が不足している上に横、縦のつながりが不十分であるため、仕事内容について従業員間で意見交換が不十分となっている。この現状を打開するため、介護に特化した若者労働組合を設立する。組合は青年層の介護事業者が事業所ごとの労働環境についての情報や職場の人間関係などの悩みを共有する場を提供する。これにより従業員の精神的負担を軽減するのみならず、介護事業者の横のつながりが強化されることで各事業所の環境や賃金が比較され、競争原理が作用することでどの事業所も労働環境を改善する方向へ向かうと考えられる。
使途限定の補助金給付
人手不足の原因は賃金の低さと資格取得のハードルの高さ。そこで、資格所有者への賃金優遇および資格取得を試みている人へのフォローアップに使途を限定して補助金を給与する。この助成金は消費税増税分から捻出する。また、介護施設による資格試験対策へ金銭的補助を行うことで、今まで金銭的問題から専門学校等に通うことのできなかった人達に資格取得のチャンスを与える。
介護業界のイメージ改善
人手不足の原因は実体以上のネガティブなイメージの先行。一般の人に正しい介護業界のイメージを知ってもらうために、中高生向けの職業体験を開いたり、地元のお祭りに参加する等して積極的に介護業界の好イメージを発信する。
介護業界への新規事業者参入促進
人手不足の原因は従業員の質と賃金の低さによる離職率の高さ。この問題を解決するために、介護業界への参入障壁を低くして事業間の競争を刺激する。具体的には介護企業の法人税引き下げ、助成金、積極的な融資などの政策を行う。参入障壁が低くなることで介護事業にビジネスチャンスが生まれ、新規参入者の増加が見込まれる。これにより事業者間の競争が刺激され、企業は労働者を確保するために従来の経営モデルを見直し待遇改善に乗り出す。最終的には従業員の質や賃金は労働者が満足できるレベルに達すると考えられる。
資格取得制度の見直し
人手不足の原因は資格取得のハードルの高さ。人材不足の中、高い質の介護士を求めて資格取得制度を厳格化することは更なる人材不足を招きかねない。そのため、介護に関する資格取得を容易にすることで介護職につくことのできる人材を増やし、人手不足の解消を目指す。
キャリア制度の導入
人手不足の原因は離職率の高さと低賃金。介護現場での評価担当者によるアセスメントを行い、介護福祉士が段階を踏んでステップアップできる制度を整え、さらには段階があがるにつれ賃金も上昇させる。これにより介護士の着実なレベルアップ、賃金上昇というインセンティブによる介護職への定着率向上を狙う。
法人税引き下げによる賃上げ促進
人手不足の原因は賃金の低さ。賃上げための政策は過去にも行われてきたが、直接的には賃上げに結びついてこなかった。そのため今回の政策では、介護職員への賃上げを行った事業所に対し政府から法人税の控除を行うことで直接的に賃上げを促進する。
建設・介護業界どちらも「イメージが悪い・低賃金」という共通点がありました。これらはもう人々に根本的に根付いているもので、簡単には変えられません。ディベート後のメンバーへのアンケートでも、肉体労働よりも頭脳労働をしたいと答える人が多数でした。
しかし、全員がなりたい仕事に就けるわけではありません。リストラや就職難の煽りを受けて自殺している人はたくさんいます。「仕事が多すぎて死ぬ人もいれば仕事がなくて死ぬ人もいる」なぜこのような相反した事象が起きるのでしょうか?何故、実際に働いてもいない職業を「働きたくない」と強く思うのでしょうか。私はこのズレの解消をとく鍵は「イメージ」そしてそれを発信する「情報」にあるのではないかと思います。イメージをどう操作するかよりも、イメージに左右されず自分の意思で決定する国民をどう育てるかが国の未来を考える上では重要なのかもしれません。
文責 鎌田明里