今年度の春合宿では、春合宿にお招きした講師の方々との勉強会を通して学びを深めてきたテーマである「人口減少社会」について、ディベートを実施しました。
議題
「産業特区設置と潜在的労働力活用、どちらの方策が人口減少下においても経済成長を有効に維持できるか」
以下、産業特区設置派・潜在的労働力活用派において挙げられた論点です。
産業特区設置派
産業特区とは、ある産業に特化した地域のことを指す。
・地方が活性化し、雇用を創出できる。これにより都市圏への人口流出の阻止、地方経済の活性化、地方税の増収、インフラの整備が可能になる。
・存続の危うかった産業が人口減少下でも活性化する。
・特区内では一つの産業に特化するため、同業者が多数集積することで強い産業を構築できる。
・特区設置の際にまちづくりが促進され、バランスが取れた年齢層のコミュニティが形成される。
・産業特区はハイリスクな政策だが、経済成長のためには不可欠。
潜在的労働力活用派
・潜在的労働力とは女性や高齢者、ニートを主とした、現在社会であまり活用されていない働き手のことを指す。
・潜在的労働力の活用で、労働人口減少を補うことができる。
・女性が出産、育児後も働き続けられれば世帯の収入が向上する。家計に余裕が生まれることは出産のインセンティブになるので、これは出生率向上にも寄与する。
・定年後も高齢者を継続雇用できれば、企業はシニア世代の豊かな経験・能力を活用できる。また現役労働世代が増えるので、年金財政悪化の歯止めにもつながる。
・ニートが労働することで社会保障に貢献すれば、福祉問題の解決につながる。
・ニートの発生を抑制する策として「早期からの就業訓練」、「ワークライフバランス実現による家庭環境の良好化」などが挙げられる。
・潜在的労働力の活用ならば、ローリスクで経済成長が実現可能。
今年度最後ということもあって今回のディベートは45分と長めに設定されています。また反駁の機会を倍に増やす、という新形式も導入されました。このため話し合いの中で戸惑う声も散見されましたが、全体的には普段以上に白熱した深い議論が交わされていました。
反駁の明瞭さは今回特に際立っていて、これは反駁できる回数が増えたことに加えて、各回において反駁して良い論点がメリット・デメリットのいずれかに固定されていたことが大きかったと考えられます。
ディベート終了後、両チームから「さらに議論を重ねて一つの政策にまで昇華させたい」との声もあがりました。
最後に、産業特区による雇用創出という論点に注目し、これを深めるため「地方出身者は都心と地元のどちらで就職するのか」、という議論を全員で行いました。合宿参加者のうち半数近くが地方出身でしたが、そのうち地元での就職希望者はゼロ人でした。この理由としては、都市部の方が大企業が集中している・就職活動が便利である、などが挙がりました。また、このような就活格差を改善する取組みとして、出身地に一括した就活の窓口を設置する試みが紹介されました。
今回のディベートは単なる肯定・否定ではなく、政策としてどちらが優れているのかが争点となっています。そのため産業特区と潜在労働力という異質な方針どうしがぶつかり合うこととなりました。しかし、議論の中で比較され合うことで両者の差は立体化されていき、最終的には「リスクの大小」という、当初の立論にはない観点を両チームは発見しています。政策どうしを比較しあうことの重要性を実感すると同時に、議論がこのように深まっていくことが印象的なディベートでした。
文責:東恩納 麻州