2013年度 公開講演会

地球環境と共存可能な社会の実現のために

特別講師 出雲充氏(株式会社ユーグレナ代表取締役社長)


 Front Runnerでは、学生の方々と共に日本のこれからについて考え、「学生と社会をつなぐ」というサークルのミッションを達成するため、そしてより多くの方にFront Runnerの活動を知っていただくために、年に一度公開講演会を開催しております。


 今年度は、去る118日、株式会社ユーグレナ代表取締役社長 出雲充氏を日吉キャンパスにお迎えし、ご講演いただきました。

環境ベンチャー立ち上げの志


 公務員やサラリーマンが多く住む東京都の多摩ニュータウンに生まれ、ごくごく一般的な家庭で育った出雲氏は、『将来の仕事として思い浮かぶのは公務員とサラリーマン、それならば大きな仕事ができそうな国際公務員になろう。』と思っていたそうだ。


 では一体出雲氏の気持ちを変えたきっかけとは何だったのか。それは、氏が海外を知ろうと大学一年生の頃に訪れたバングラデシュにあったという。訪れる前まで想像していた飢餓で苦しむ子供たちの姿とは異なり、実際目にしたのは、毎日三食食事を摂りながらも栄養失調に苦しむ子供たちの姿。これを受けて氏は「世界の栄養問題を解決したい」と思い、それから、栄養素が効率的に含まれているものは何か?と考え抜いた末、たどり着いたのがミドリムシ(学名:ユーグレナ)だったのだそうだ。このミドリムシは、唯一動物と植物の両方の特徴を持つ藻の一種で、59種類の栄養素を含んでおり、これで10億人の栄養失調を救える!と確信したのだそう。


出雲氏の思い描く現在の環境問題の解決策と未来像


 現在世界では、化石燃料を使用してCO2濃度の上昇や異常気象、地球温暖化などといった環境問題が深刻化している。 車、船といった乗り物は化石燃料を利用して動いているが、環境保護の観点からこれらを電気に切り替える動きが進んでいる。 電気でモーターやスクリューを回すことができるが、電気でも動かせないものがある。それが航空機だ。航空機にプロペラをつけて動力源を電気としたら決して空を飛べない。電気を使うならプロペラ機を飛ばすのが精一杯なんだそう。では航空業界だけ化石燃料を使い続けていいのか、環境負荷の低減をさせなくていいのか。


 そこで、登場するのがミドリムシ由来のバイオ燃料だ。ミドリムシは成長する時にCO2を吸収する、そのミドリムシから作られるバイオ燃料を使えば燃焼時に出るCO2は排出されるが、トータルの排出量は化石燃料に比べ確実に減る。そこで、氏は今後の未来像として、ミドリムシを使った燃料で飛ぶ飛行機が当たり前な世の中にしたいとおっしゃっていた。


未来を担う私たち学生に伝えたいこと


 出雲氏は、学生に伝えたいこととして三つのことをお話しされた。

 

①  この世にくだらないものなんてない。

「くだらないと思うものがある時、それはその人の取り組み方がくだらないのではないだろうか。現に私はミドリムシで地球が救えると信じてきた。起業して間もないころ、企業の稟議書に書く主要取引先がひとつもなく、どの企業も取り合ってくれずにいた。しかしそれでも諦めずに営業を続けた結果、20075月、もう倒産寸前だというときに、伊藤忠商事が受け入れてくれた。これを機に営業の幅は広がり、株式市場に上場するまでの企業に成長できたのだ。これもすべては、ずっとミドリムシで世界を救えると信じ続けてきたおかげなのだ。」

 

②  奇跡はチームでしか起きない

出雲氏が成功できたのは、信じてついてきてくれた二人の仲間のおかげだという。ここでは、日本のアニメ、ドラゴンボールとワンピースを比較して話された。「昔流行っていたドラゴンボールは孫悟空が一人で修業をして、自分自身で敵を倒して強くなっていくというバブル崩壊までのインフレの考え方であるのに対し、ワンピースは、チームでワンピースをめざし、その過程にチームで起こす奇跡がある。今の時代にワンピースが支持されることの背景にはこのような理由があるのではないだろうか。」

また、女子サッカー日本代表へのアメリカ選手からのコメントに、何度もteamという言葉が多用され、日本代表のチームワークの素晴らしさを称えていたことを取り上げ、チームでしか起こせない奇跡があることを主張されていた。

 

③  一番にこだわれ!

日本で一番高い山と二番目に高い山を尋ねたとき、その正答率はy=1/xという関数で表せる。これはつまり、一番と二番ではその知名度からなにから全てにおいて全く違うということだ。先ほど②で言及されたチームに関しても、サポートしよう、一緒にがんばろうと誰かに思ってもらい、ついてきてもらうにはやはり一番を目指さなければならない。たとえ成功率が1%であったとしても、やらなければ成功はない。『一回挑戦したときの成功率が1%であっても、459回挑戦すれば99%成功します。』これは何よりやり続けることが重要であることを物語っている。またips細胞の研究でノーベル賞を獲得した山中伸弥教授の言葉、『実験の多くは失敗に終わる。「だからやらない」でなく、「もしかしたら成功するかも」と考えることが大切です。』を引用し、学生に信じて努力し続けることがどれほど大切なのかについても熱く語りかけてくださった。

 

 講演の最後には、将来の目標について、

①栄養失調が本当になくなったのだと思わせる。

2020年東京オリンピックの年にミドリムシをエネルギーに飛行機を飛ばす。

 この二点を宣言され、『2020年飛行機が無事飛んだ時には、私の話を思い出して、自分が一番を目指したか、459回挑戦したか、その答え合わせをしましょう。』と学生に投げかけ、講演を締められた。


質疑応答


Q1. くだらないと思っていることを突き詰めてもお金にならないのではないかという不安があるのですが。

A1. まず、第一にくだらないものなんてない。そして、くだらないものとお金にならないものは別物である。ほとんどの職業で「お金が足りない」と言うとき、それはどれほど足りないのかが決まっていないからであり、それが決まれば自然とほかのことも決まっていくのではないか。

 

Q2. カタログを見ると発展途上国の人が買える値段ではないと思うが、コスト面でどのような政策を考えているのか?

A2. このカタログの値段は、先進国で売る場合の値段であり、これは将来の投資のために設定してある。しかし、バングラデシュのような発展途上国での価格は別になるだろう。

 

Q3. 1%の可能性に懸けるのは勇気がいると思うが、大きな困難に立ちむかうときどのように決断すればいいのか?  

A3. まず、論理と感情に分けて説明する。

  論理:本当に安心が保証されたものはない。ならば自分のやりたいことをすべきではないか。

  感情:様々な不安が押し寄せる。強い意志で!というわけにもいかない。 ここで、感情を論理で乗り越えるのは難しい。しかし、自分を信じてくれる仲間が一人以上いれば何でもできる。不安は仲間・チームで乗り越えられるのだ。


最後に


 『眠くなるのは私の話がつまらないわけではない。CO2の濃度のせいなのだ。』といった冗談をはさまれて会場を沸かす等、ユーモアを交えてのご講演。このような興味深いご講演をして頂いた出雲様には大変感謝しております。

 

 また、当日来場くださった学生の皆様、お忙しい中足をお運び頂き誠にありがとうございました。お聞きになった皆様一人一人にとって、この講演がプラスの意味を持ったものになっているようでしたら幸いに思います。

 

 来年度もFront Runnerは“学生と社会をつなぐ”というMissionを達成するため、公開講演会を開催致します。ぜひともご来場ください。

 

  

                              文責:松本 駿