Front Runnerでは、学生の方々と共に日本のこれからについて考え、「学生と社会をつなぐ」というサークルのミッションを達成するため、そしてより多くの方にFront Runnerの活動を知っていただくために、年に一度公開講演会を開催しております。今年度は、去る11月2日、辻野晃一郎氏を日吉キャンパスにお迎えし、ご講演いただきました。
当日は、弊団体日吉代表 薦田から挨拶をした後、辻野様よりご講演を頂き、来場してくださった学生の皆様からの質疑、辻野様からの応答という流れで進行致しました。
日本人は、自分の生まれた国をもっと誇りに思ってよいだろう。明治維新と戦後復興、日本は2度国を立て直し、世界第2位の経済大国へと登りつめた。しかし、これは今となっては昔のことである。時代は前にしか進まない。過去とは環境が全く違う新しい時代においては、時代の本質を見極め、自分たちが新しいことを生み出そうという姿勢を持つべきだ、と辻野氏は強調する。日本にはこの姿勢があまり根づいていないのだという。
欧米の人々は先を見据えてリスクのある投資をする一方で、日本の人々はリスクの少ない場所に少額の投資しかしない。その結果、世界ではシリコンバレーを中心に新しい産業が続々と生まれるが、日本では新たな産業が生まれにくくなってしまった。新しいものの創出に対する意識の差が、ここに表れている。
新しい時代にはその時代の本質があり、それに見合った新しいビジネスモデル、価値観、生き方が必要とされる。過去の延長線上のビジネスモデルでは新しい時代には対応できない。実際に、グーグルやアップルやテスラモーターズなどが新時代に送り出した商品は、20世紀に産業を牽引した人達が生み出ししてきたものとはまったくの別物だ。21世紀を代表するIT関連の人々がその主軸となって活躍しているのだ。
日本人は良い製品・研究成果を生み出してきた。しかし、チャレンジに対する国内からの応援が不足していたり、自分達が生み出したものを過小評価する傾向があるために、技術や研究成果が海外へ流出してしまうということがたびたび起きている。素晴らしいアイディアを潰さないためにも、私たちは世代の違いによる感性の差、スタイルの違いを認め、正当な評価を下さなければならない。
では21世紀型とはなんなのだろうか。それはインターネットの本質にあっているかどうかである、と氏は言う。 現代に生まれた世代にとって、インターネットの存在はスタンダードになっている。
ではその世代に合わせた経営スタイルとはなにか。氏は10の事項を挙げられた。
1.最初から世界市場へ
2.日本経済の新陳代謝を加速
3.経営スタイル、企業カルチャー、ビジネス慣習の刷新
4.少数精鋭、パートナー重視
5.群衆の英知の積極活用(クラウドソーシングなど)
6.20世紀的にならない
7.常識を疑う
8.10年早く、10年速く
9.人にフォーカス
10.天真爛漫
今の日本は、過去の成功にしがみつき新陳代謝が遅い。ここを改善しなければいけない。世界へ貢献し、日本をいい国にしたい。日本のいいところを再び掘り起こしたい。それが日本のため、ひいては世界のためになる。日本を世界に発信するプラットフォームを作り出そう。このような思いから、氏はアレックスを創業するに至った。
TVの番組に出演したとき、若い学生が「チャレンジしたくない。失敗が怖い。」と話しているのを聞き、氏は衝撃を受けた。失敗がないことが、必ずしも良いことだとは限らないからである。例えば、スティーブ・ジョブズの人生においても、数々の失敗や挫折があった。例えば彼は、自分で作った会社を追い出されている。その後も、彼は多くの失敗を繰り返しながら、しかし世の中の変革に大きな貢献をした。失敗は悪いことではなく、むしろそれを成長の機会とみて、もっと何事にもチャレンジするべきなのだ。
今、東日本大震災を経て、日本は大きな転換期を迎えている。未曾有の国難を新しい国づくりの転機と捉える必要がある。例えば、雲(クラウド)を覗く窓として家電の世界は再定義された。クラウドを軸として、TV、携帯電話、パソコンなどは定義が一新された。 日本はいままでデバイスの性能で勝負してきた。しかし、デバイスは生態系に追従するものである。今や、一番重要なのはデバイスの性能ではない。生態系、つまりクラウドを軸にした新たなユーザエクスペリエンスの創出なのだ。
一身にして多生を得る時代。
新しい秩序を作り出す前夜の混迷。
低コストの公共インフラや無限のコンピューターパワーを最大限に活かせる恵まれた環境。
みなさんは今をどう捉えるのか。
自分の目で見よう。自分の頭で考えよう。自分の責任で行動しよう。
私たちは過去の成功体験をリセットし、日本の新たな時代を作っていかなければならないのだから。
Q1.辻野さんのご講演を聞く限り大学でやっていることというのは今の時代に合致していないと感じます。大学の授業をどう改革すべきだと考えていますか。
A1.日本は大教室での知識の詰め込みが中心の講義になっている。だが欧米は少人数での参加型教育を行っている。知識を詰め込むのではなく、ソリューションのない問題に対して、ソリューションを見つけ出し、ソリューションへ至る道筋を構築できる地頭を鍛えるような教育が重要だ。
Q2.お話の中で、失敗こそ成長へのステップだという言葉がありました。辻野さんの人生において、成長につながった重要だと思われるような失敗はなんですか。
A2.挫折や失敗の多い人生でした。大学受験にも失敗しましたし、会社でも失敗をたくさんしてきました。しかし、一番大きな失敗は、大好きだったソニーをやめざるを得なかったことです。
Q3.もし学生に戻れるとしたら学生のうちから起業しますか。それとも就職し、企業に身を置いて起業のためのスキルを磨きますか。
A3.その時に自分がやるべきだと思ったこと、感じたことをやります。たとえスランプに陥っても前に進むようにすること、足を止めないことが結果につながると思います。
Q4.アイディアの源はどこにあるのでしょうか。たとえば、寝る前にはどんなことを考えていますか?
A4.普段あまり寝ませんし、寝る前は頭を空にしています。朝は3時過ぎには起きて仕事を始めるまでの朝の時間を大切にしています。
お忙しい中遠方よりお越しくださり、ご講演くださいました辻野様、本当にありがとうございました。
また、当日ご来場くださった学生の皆様、ありがとうございました。皆様おひとりおひとりにとって、この講演会がポジティブな意味合いを持つことができておりましたら幸いです。辻野様、学生の皆様をはじめ、本講演会に関わってくださったすべての方に、厚く御礼申し上げます。
来年度もFront Runnerは、学生と社会をつなぐ、というMissionを達成するため、公開講演会を開催致します。ぜひともご来場ください。
文責:請園 薫(一部修正・追加:中山 遥)