第 1 回リフレクション ~ メディアにおける事実と真実 ~
今回のリフレクションでは、Case Studyや楊井氏の講義を通して深めてきたテーマである「メディアにおける事実と真実」についてより深く理解するために、2週間にわたりNIE学習を行いました。
NIEとはNewspaper In Educationの略称で、学校などで新聞を教材として活用する活動のことです。日本では「教育に新聞を」と訳されています。具体例としては、新聞記事に対する自分の意見の発表や複数の新聞の読み比べ、新聞記事を自分で作成する活動などが挙げられます。1930年代にアメリカで始まり、日本では1985年に静岡で開かれた新聞大会で提唱されました。
1週目の定例会ではまず、8班に分かれ新聞記事を作成しました。
詳細は以下の通りです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【目的】NIE学習を通して、FRサークル員のメディアリテラシーを向上させ、今後のディベートの立案作成等に役立てる。またFRを社会の縮図と捉え、教育によるメディアリテラシーの向上方法を潜在的に検証・考察する。
【概要】
各班が課題テーマについて調べ、800字から1000字程度の新聞記事(イメージとしては社説やコラムに近い)を作成する。
【課題テーマ】
靖国参拝問題
2014年4月22日、新藤義孝総務相が春季例大祭中の東京・九段北の靖国神社に参拝した。加藤勝信官房副長官、衛藤晟一首相補佐官も参拝。超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(会長=尾辻秀久元厚生労働相)に所属する衆参の計約150議員も参拝した。
君が代問題
3月27日、東京都教育委員会は第5回定例会で卒業式での「君が代」斉唱時の不起立などを理由に4名の教職員(中学校1名、都立高校2名、特別支援学校1名)の懲戒処分を決定し、28日に都教委職員が各学校に出向いて該当者に対する処分発令を行った。これで卒業式・入学式などで「君が代」斉唱時の起立・斉唱、ピアノ伴奏を強制する都教委の10・23通達による処分者数は延べ461名となった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
記事作成中には所々で議論が交わされ、班の方針が度々変更されている様子がうかがえました。最後、それぞれの班が急いで文章を書き上げている姿はまるで本物の新聞社のようでした。90分という短い時間でしたが、その時間の中でそれぞれの班がテーマに関する議論や情報収集を行い、新聞記事を作成していました。
2週間目の定例会では、1週目で各班が作成した記事を読みあい、靖国問題や君が代問題について学びを深めるとともに、メディアリテラシーについても考えました。
靖国問題とは
まず、記事作成のテーマのひとつである靖国問題について、2年生の宮村によるファシリテーション形式でその背景や歴史について学習しました。以下はその内容です。
靖国神社は1869年、明治維新の動乱期に官軍側に従事して戦死した者を祭神として祀るために誕生しました。
国の戦乱に殉じた多くの戦没者を祀る靖国神社には、極東国際軍事裁判で「平和に関する罪」に問われた戦争犯罪人も合祀されています。そのため、公人の靖国参拝に対して、中国韓国を中心とする諸外国から反発が起こっています。
新聞記事鑑賞 ―靖国問題―
次に、1週目で作成した新聞記事を批判的な姿勢で読み、新聞記事のどのような表現が読者の誤解を招くのかを考えました。
新聞記事を読んでいく中で、以下のような意見が出ました。
・「日本人の歴史観の特徴として、過去のことにとらわれない、というものがある。」や「中国人は歴史を重んじる傾向がある。」などの表現は、一見もっともらしく見えるが、実際にそうであるのかは疑問である。このような表現は、読者の思想にステレオタイプを植えつけかねないのではないか。
・政府要人や学者の発言の一部を切り取り、それを記事の主張の根拠としているものがあった。このような表現はよくメディアで使われるが、発言の全体ではなく一部しか掲載しないために、本来の発言の趣旨とは異なった風に報道されてしまうことがあるのではないか。
・首相の靖国参拝に反対の記事の中で、「首相の靖国参拝は政教分離原則に反する」「首相の靖国参拝は違憲であるという見解がある」とだけ書かれているものが目立った。読者が問題を正しく認識するためには、なぜ政教分離に反するのか、なぜ違憲なのかについてより具体的な説明を付するべきではないか。
靖国問題に関するディスカッション
続いて、「公人が靖国神社を参拝することに賛成か反対か」について全員でディスカッションを行いました。
肯定派
・首相の参拝行為は、見方によっては悲惨な戦争を二度と起こさないという決意の現われともとることができる。未来の平和のために公人が頭を下げる行為はむしろ世界に発信すべきだ。
・靖国神社にはA級戦犯以外の人も多く祀られており、現在は246万人もの戦死者が祀られている。A級戦犯が祀られていることを理由としてその他の戦死者に祈りを捧げることが出来なくなってしまうのは問題ではないか。
否定派
・ただ参拝するだけで諸外国に過剰に反対されるなら、外交上の不利益を考えれば、いっそ参拝はしない方がいいのではないか。
・首相が公人であること、そして公人としての責任を考えると、あえて靖国神社を参拝し外交面で波風を立てる必要は無い。
・政教分離は徹底するべきである。
君が代問題とは
記事のもうひとつのテーマである君が代問題について、その背景や歴史を学習しました。以下はその内容です。
君が代の斉唱は一見常識にも思えますが、法律的に基礎づけるものは最近まで存在しませんでした。1958年の学習指導要領において国歌の斉唱は「望ましい」とされ、1989年の学習指導要領では「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」とされました。1999年の「国旗及び国歌に関する法律」で君が代を国歌とすることが規定されましたが、公務員の国歌斉唱を義務づける法律は未だ存在しません。
新聞記事鑑賞 ―君が代問題―
次に、1週目で作成した新聞記事を批判的な姿勢で読み、新聞記事のどのような表現が読者の誤解を招くのかを考えました。
新聞記事を読んでいく中で、以下のような意見が出ました。
・君が代を歌うことについて、記事作成者の主観的な意見が多分に盛り込まれている記事があった。このような記事は、読者に偏った思想を植え付けやすいのではないか。
・「…と思われる。」「…のではないだろうか。」などの曖昧な語尾が目立った。
・発言の引用元が明示されていても、その引用元が信用に足る人物、機関であるかがわからなければ、情報の信用性が担保されているとは言いがたいのではないだろうか。
君が代問題に関するディスカッション
続いて、「公務員は君が代を起立して歌うべきか」についてディスカッションを行いました。
肯定派
・君が代斉唱はナショナリズムの高揚や愛国心を促すという点で意味がある。
・公務員は税金をもらって給料を得ているということを考慮に入れると、国への感謝の意として君が代を歌うべきである。
・学校の行事で君が代を歌う先生と歌わない先生がいると、生徒が混乱するのではないか。
否定側
・国歌斉唱の強制は日本の過度な右翼的傾向に繋がってしまうのではないだろうか。
・憲法に定められている「思想及び良心の自由」に反する。教師も公務員である前に一人の人間なのだから、思想の自由を認めるべきだ。
メディアリテラシー
NIEで学んだことを踏まえ、私達がメディアリテラシーを身につける手段としてどんなものが考えられるかについてディスカッションを行いました。その結果、
・メディアの作り手と受け手、双方向の視点を持つようにする。
・メディアを介した情報だけでなく、一次情報(政府発表の資料や記者会見の発言の全文など)を得るようにする。
・アイドルの恋愛報道(誤報道)に惑わされることでメディアの情報の信憑性の薄さに気付くのではないか。
などの意見が出ました。
その他にも、情報の発信者と受信者両方の体験をすることで、いかなる情報にも発信者の意図が多かれ少なかれ入ってしまうことを実感したとの意見が多く聞かれました。
今回のリフレクションを通して感じたのは、立場や論点によって見えるものが変わってくるということです。
たとえば靖国参拝問題については、A級戦犯が祀られている靖国神社を参拝することは平和主義への抵触だ、という声がある一方で、平和主義を助長する行為だ、という声もあります。靖国神社を参拝することで戦争の歴史に区切りをつけ、新たな未来を見据えるという見方もできるのです。
また君が代問題については、斉唱の行為そのものよりも、強制を促す主体の思惑やそれによって生じる結果などについて議論するようになれば、もっと深く問題を捉えられるのでは、と感じました。
メディアの役割・責任を意識すれば、発信する情報が肯定否定のどちらかに傾くことには問題があるといえます。かといって、完全に中立な意見などありません。このことを踏まえると、情報を発信する側は自身の立場を弁え、読み手は情報リテラシーの力をつける、この双方の努力が大切です。
また議論の中で、読み手がメディアを通して情報を得て、そのことについて熟知したような気持ちになってしまうのは危険なことだとの意見も出ました。まずは自分が無知であることを知ること、そしてその上で様々な情報を得て自分の知識を深めていくこと、これもメディアリテラシーの1つではないかと感じました。そしてFront Runnerのような活動こそ、それを行うのに最適な場だと思いました。これからの活動でも、そのことを意識するようにしたいと思います。
文責 鎌田明里、森田健人