9月12日、Web会議サービスであるZoomを用いて、「インターネットの光と影~ネット依存症の危険性~」というテーマのもと、エンジェルズアイズ代表である遠藤美季氏をお招きし、勉強会を開催しました。
パソコンインストラクターを経て、保護者・学校関係者に対して子どものネット依存の問題の啓発活動を展開するため、2002年に民間団体エンジェルズアイズを設立。現在、Web上やYouTubeでの普及啓発活動、保護者や子どもからの相談受けつけ、助言を行っている。また、情報モラル講座をはじめ、テレビ、新聞、雑誌等でもネットとの快適な距離・関係のあり方について提案を続けている。
自身がインストラクターとして勤めていたパソコン教室に来る生徒の中に、ネットを利用する時だけ乱暴な言葉遣いをする女性がいたことがきっかけとなり、インターネット中毒について興味を持った。同時期に、友人のネットインストラクターの中にもパソコンの使いすぎにより幻聴、幻覚を経験している人がいることがわかり、ネット依存に対して早期に危機感を抱いていた。インターネットにより生活が一変した実例や、早くからインターネットに触れる小中学生の話を聞くうちに、ネット依存の危険性について発信することの必要性を感じ、その手段として2002年にエンジェルズアイズを設立した。
インターネットやそれを取り巻く環境は日々変化し、一概に過去と比較できないという特徴があるため「インターネット依存(以下ネット依存)」について明確に定義することは難しい。しかし、インターネットに依存することの危険性については若年層も重々認識している。アンケートをとってみると、自身がインターネットに依存していると自覚している小中学生はおよそ2割程度である。そして、家族のネット依存を危険視する子供はそれ以上に多い。大人になってからネット依存になったとしても、依存から脱却するには何年もかかることがあるため、そもそも依存に陥らないよう対策することが重要である。
基本的には自分の意志でネット利用をやめられない、あるいは健康に害が出るほどネットを使ってしまう場合はネット依存と言っても過言ではない。しかし、いまやインターネットは現代人の生活にとって必要不可欠であり、友人との連絡をとったり仕事をしたりするためにはインターネットを手放す訳にはいかない大人が多数を占める。このため「インターネットがなくては生きていけない」と感じる人も多いのである。
また、現在インターネットは中高生にとっても身近なものになっている。分からないことをすぐ検索エンジンで調べたりスマホゲームで遊んだりするように、常にスマートフォンに触れているのが当たり前といった風潮の中で、オンラインで代替されたコミュニケーションが円滑に進まずいじめが発生するなどの問題も生じている。昨今は新型コロナウイルスの影響もあり、大人の「オンライン飲み会」を真似て深夜まで友達と話して寝不足になる、というような状況も見受けられる。多種多様なインターネットサービスが登場し、通信が快適になるほどよりネットに依存しやすくなっているのだ。
タブレット端末を使う機会が多い現代人こそ、目的をもってIT端末を扱うことが大切だ。インターネットは目的を達成するための一手段であり、我々はインターネットとワークスタディバランスを見つつ上手に付き合っていくべきである。
IT端末との付き合い方は人によって多種多様であるが、未来を担う学生たちにとっては、現実世界を大事にしつつ上手にインターネットを活用することが大切だ。まずはたくさんの本や漫画、映画などから様々な情報を吸収し、未来を予測する訓練をしてほしい。また、インターネットだけでなく新聞やテレビなど、多彩なメディアにアンテナを立てて欲しいと考えている。激化するICT競争がもたらす地球温暖化の進行やAIのシンギュラリティなど、考えるべきことは多くある。どのような未来を作りたいのか想像しながら、学生の皆には日々ベストを尽くせるよう行動してほしい。
Q1.ご講演で使用されていたスライド中の「8050問題」とは何なのかお聞かせください。
A1.80代の親に生活を保護してもらっている50代の人口が増加しつつある、という社会問題のことです。彼らの中には定職に就かず、インターネットコミュニティの中に自身の居場所を作っている人が多く、親世代が年金で50代の子供を支えていると考えると、家族以外が支える仕組みが必要となり我々が負担する税金の額も膨大になることが予想されます。このため、8050問題を予防する必要があるのです。
Q2.eスポーツのプロ選手に憧れゲームにのめり込むことと、ネット依存症の間にはジレンマがあると思うのですが、遠藤様はどうお考えですか?
A2.プロの選手は自身の健康に気を遣い、インターネットを使う時間をコントロールしています。そこまで気を配れない場合はただ、お金を稼ぐためまたは遊びの延長としてゲームをしているだけなのです。子供がプロゲーマーになりたいと言い出した場合、まずはプロになるまでの過程をきっちり計画し、保護者が一緒に考えてあげてほしいと思います。
Q3.インターネットとともに暮らしていくために必要なことは何でしょうか?テレビに加えてタブレット端末・スマートフォンや様々なゲーム機が登場している今、どのような立場の人が何をすべきなのかお聞かせください。
A3.消費者側の視点から見ると、まずは私たちひとりひとりが依存に対してネット依存症に対して危機感を抱き、対処することが必要です。例えば、一昔前の時代では中学生のうちから煙草を吸っていた人も存在しましたが、昨今は煙草の危険性を説く依存症予防教育が普及したおかげで、そのような中学生はあまり見かけません。また大人になってからも喫煙しようと考えません。やはり、教育は大きな影響力を持っているので、プレママ・プレパパ世代や子どもたちを対象にインターネット依存についての教育をすることが大切だと考えています。企業側の視点から見ると、消費者にインターネットサービスを利用してもらうことで直接的に利益が出るGAFAのような企業がインターネット利用に規制をかけることは非現実的でしょう。そのため、デバイスを生産している企業が、消費者の身体に影響が出る前にある程度の利用制限を設ける等の対処が必要だと思います。
Q4.インターネットによる誘惑が多い昨今、日々の生活において集中力を持続させるために必要なことはどのようなことだとお考えでしょうか。
A4.個人的には「今、この瞬間に集中する」マインドフルネスという呼吸法が有効なのではないかと考えています。しかし、人によって合う方法は様々なので、色んな方法を調べて試すことが大切です。
Q5.自身は情報発信と情報収集のためにSNSを使っていますが、時間を無駄にしていると感じています。情報収集などの目的をもってSNSを利用することは可能でしょうか?
A5.インターネットを利用する目的は人によって様々です。しかし、インターネットを見ている時間が「暇つぶし、時間つぶし」なら意味が無いと思います。情報を得たり、知識を増やしたりというように、自分にとってSNSの利用がプラスになるよう意識して使うのが良いでしょう。まずは自分が何のアプリをどのくらい使っているのか定期的に確認し、客観的に見てみることをお勧めします。
Q6.インターネットからネット依存について呼びかけるという矛盾についてはどうお考えですか?
A6.エンジェルズアイズでメール相談を受け付け始めた頃は、「この返事を読んだらパソコンを閉じ、今すぐインターネットを切断してください」と呼びかけていました。団体では依存者1人1人に対して活動をしていましたが、近年はより強力に情報発信することの必要性を感じており、影響力の大きなインターネットを使うことはエンジェルズアイズの活動に必要不可欠だと考えています。最近は動画コンテンツに対する依存性が強いと感じているので、自身が制作している動画においては動画の合間に区切りのポイントを入れ、動画の見すぎを予防するようにしています。
遠藤様のご講演を通じて、改めてインターネット依存の恐ろしさ、そして身近さを実感しました。新型コロナウイルスの影響により、従来よりもパソコンやスマートフォンを長時間使わざるを得ない中、心身の不調や人間関係のもつれなど様々な問題が新たに生じています。インターネットが現在の生活に必要不可欠である以上、目的を意識してインターネットを活用し、うまく付き合っていくことは重要であると感じました。
今回ご講演いただきました遠藤美季様、本当にありがとうございました。
文責:五十嵐咲良