2018年度 春合宿グループA

地方が活躍する時代へ                 ~世界に飛び出すベンチャー~

松本直人氏(フューチャーベンチャーキャピタル株式会社代表取締役社長)


 2月12日、オリンピック記念青少年総合センターにて「地方が活躍する時代へ~世界に飛び出すベンチャー~」と題してフューチャーベンチャーキャピタル株式会社代表取締役社長の松本直人氏をお招きし、地方創生における人材育成の観点からお話を伺いました。

略歴


 神戸大学経済学部卒業後、2002年にフューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下、FVCという。)に入社。ライブドアショックやリーマンショックに耐えながらも、2016年1月に代表取締役社長に就任。FVCの投資姿勢である「どうすれば投資できるかを考える」を実践し、投資担当者・ファンドマネージャーとして50社以上のベンチャー企業の投資を担当。現在も創業と事業承継に特化した地方創生ファンドやCVCファンド等の強みを活かしつつ、投資先企業の経営支援を続けている。

日本のベンチャーキャピタル業界(以下、VC業界とする)の現状


 一般的なベンチャーキャピタルは、将来性を評価してベンチャー企業に投資し、それら企業のIPO・M&Aの際に所有株式の売却によって利益を得る。アメリカのベンチャー投資のうち9割がM&Aで投資回収している状況に対し、日本では人口減少によって市場が衰退しつつあるため、M&Aで利益を回収しにくい状況下で投資回収の8割をIPOに頼っている。IPO時の企業価値は、テーマ性の高い企業の価値が高騰しがちで、市場評価額とその会社の本来の価値が常時均衡するわけではないことから、VCの投資がテーマ性の高い企業に偏ってしまいやすい。これは、株式市況が上昇トレンドの時に投資回収を迎える場合は大きなリターンが得られるが、一旦株式市況が下降トレンドに陥った際はほとんどが損失を被るため、日本に安定してリスクマネーを拡大させるためには、IPO依存からの脱却が必要となるだろう。

FVCの手掛ける持続的な地方ベンチャー投資システム


 FVCによる「創業支援ファンド」は、①創業支援、②地域企業の経営改善、③域内経済の活性化の3つを目的にしており、必ずしもIPOによる利益回収を前提としていない。このファンドでは、種類株式に自社株買いの項目を盛り込むことで、地方ベンチャーの成長と共にVC(及びファンドの出資者であるその地域の金融機関)も利益を得ることができる仕組みをとっている。各地域の金融機関による資金面などでの協力のもと、現在では計19本もの地方創生ファンドを運営・管理している。ファンドを通すことで、その規模から一般的なVCには投資対象とされないが地方活性化に大いに貢献しているベンチャー企業と、リスクマネーの供給が難しい地元の金融機関とを繋ぐことができ、地元の資本からベンチャー企業への支援を可能にする。FVCはそれらを機能させるインフラシステム会社としての役割を担っている。

経営者との信頼関係


 支援する側として何よりも大切なことが、経営者一人ひとりが世の中の役に立とうと真剣に考え、リスクをとって事業をやっているのだということを理解・共感し、尊敬することである。支援する側も、その会社の運営に携わる一員であるという意識を持ち、当事者意識をもって経営戦略を経営者とともに考えていくことによって、より良い経営の手伝いが成立する。また、投先資企業決定の際の事業性評価においても、FVCは経営状況や利益率などといった数値データ以上に、競争力そのものと考える「共感」や「感動」を得られる事業であるかを基準としている。経営者が、「共感」や「感動」を伝えられる事業作りを通じて、VCや顧客に対し熱意を伝えていく姿勢こそが、今後活躍していくベンチャーの条件としての重要な鍵となるだろう。

質疑応答


Q.1FVCの姿勢を行政に応用するアプローチとしては何がありますか?

A.支援側としてFVCも行政も、必要とされるものは全く同じであると考えています。徳島県では食用花を地域の特産品にしようという動きが進んでおり、その中心となっているのが活動に非常に熱心な財務省の方々です。それまでは傍目で見ていた周囲を巻き込んで活動を広げ、実際に現地では生産レーンも進んでいます。こういった熱量は個人個人の強い原体験から出てくるものであり、自身の原体験から発する熱意を大切にする、または自分ではなくともそういった強い思いを持っている人を積極的に応援していくことが大切だと考えます。

 

Q.2各地域の企業の支援を通じてどのような日本を創っていくべきですか?

A.事業としては自分のやっていることに誇りを持てるかどうかが全てです。それぞれが自国に、住んでいる地域に、そして自分自身に対して誇りを持てるような国にしたい、してほしいと考えています。

 

Q.3今後、他地域に活動を拡大していく方針でしょうか?

A.はい。全国に拡大していきたいと考えています。ただし現在FVCが提携し、事業に賛同してくださっている地域金融機関や行政のトップは、状況を変えなければいけないという強い当事者意識・危機感をお持ちの方々です。天下りなどで任期のみ過ごせればいいと考えるトップも多く、そういった方々にも事業を広げられるかが勝負になってくると思います。

 

Q.4投資企業の上場先はジャスダックやマザーズになるのですか?

A. はい。ほとんどがジャスダックやマザーズになります。

 

Q.5日本のVCは一度の成功で大きな利益を得られるIPOを目的とした企業の方が多いが、現在のFVCと、IPOを目的としていた以前とでは利益の差はありますか?

A.一般的なVCは一山当てることを目的とする商売で、市場の状況に非常に大きく影響されます。例えば去年のケースでは、メルカリ株式会社に投資したかどうかという点のみで全VCに成功かそうでないかのラインが引かれました。そういったビジネスモデルは本当にベンチャー企業を支援することにつながっているのか、ということに疑問を持ったFVCは、市場に影響されくい持続可能な投資回収サイクルを目指す方向に転換したため、安定的な利益を上げられる会社になったといえます。

所感


 講義の冒頭のメッセージにて、「仕事量」とは物理の公式に準じ「ひとの心を動かした深さ × 移動距離」であり、数値化できない人の心を動かした程度こそが、AIやロボットがどうしても代わることのできない人間の大切な仕事であるとのお話がありました。「付加価値」と言われがちですが、単なる仕事のアウトプットの量ではなく、それがどう相手の心に届くかどうかが大切であるというお話に、松本様を中心としたフューチャーベンチャーキャピタル株式会社様の全体方針がよく現れているのだと思いました。最初から最後まで相手に真摯に寄り添い、支援していくことは、仕事においても、さらには地方創生における人材育成においても大切なことであると学びました。

今回御講演いただきました松本様、ありがとうございました。

文責:竹長 はるな