12月22日、日吉キャンパスにて、「シンギュラリティと労働のこれから~人間らしさの砦を探して~」というテーマのもと、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏をお招きし、勉強会を行いました。急速なAIの進化に伴い「いずれは人間の労働のほとんどがAIによって代替されてしまうのではないか」という予測も存在しています。このような時代において、私たちが自分らしく生き抜くために必要なことは何かを考えました。
駒澤大学経済学部准教授、早稲田大学非常勤講師、慶應義塾大学SFC研究所上席研究員、AI社会論研究会共同発起人。博士(経済学)。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2011年に早稲田大学大学院経済学研究科で博士号を取得。早稲田大学政治経済学部助教、駒澤大学経済学部講師を経て、2017年より同大学准教授。専門はマクロ経済学。
AI(人工知能)とは、知的な処理を行うことのできるソフトウェアであり、人間の頭脳を代替することが可能である。身近なAIとしては、SiriやAlphaGo(アルファ碁、Google DeepMind社によって開発され、初めて人間のプロ囲碁棋士を破ったプログラム)などが挙げられる。最近では、AIは芸術の分野にまで進出しており、その発展スピードには目を見張るものがある。近年AIが急速に発展を遂げている背景には、AIに読み込ませるデータが豊富にあることや、ディープラーニングが可能になったことがある。特に、画像認識が可能になったことで、AIはカンブリア爆発のように爆発的な進歩を遂げている。
第四次産業革命とは、AIやIoT、ビッグデータによる産業構造の劇的変化を指す。これまでの産業革命を振り返ると、第一次産業革命ではイギリスで蒸気機関が生まれ、第二次産業革命ではアメリカが内燃機関・電気モーターを生み出し、第三次産業革命ではコンピューター・インターネットを生み出したアメリカが覇権を握ってきた。それでは、AI・ビッグデータ・IoTによる第四次産業革命においては、どの国が覇権を握るのだろうか。その答えはアメリカやドイツ、中国であり、日本は大きく出遅れている。第三次産業革命が事務作業のIT化であり、変化の場が情報空間に限定されていたのに対し、第四次産業革命では頭脳労働のAI化、肉体労働のロボット化により、その変化が実空間に大きく影響する。それだけに、第四次産業革命が社会に与えるインパクトは大きいと予想される。
第四次産業革命では、影響を及ぼす「場」が情報空間から実空間へ変化したことに加え、AIの形態も変化する。これまでは、ある目的にのみ特化した「特化型AI」が主流であったのに対し、今後は「汎用AI」と呼ばれる、人間と同様に様々な状況で知性を生かすことのできるAIの開発に移行していくと言われている。そして、その汎用AIが登場すれば、雇用の在り方は大きな影響を被ると予想されている。
ある目的にのみ特化した「特化型AI」は、特化型ロボットとの併用により、ある特定の職種だけ代替する。しかし、「汎用AI」と汎用ロボットを併用した場合には、様々な職業を代替すると考えられる。それでは、人間に残される仕事とは一体どのようなものだろうか。将来無くならない仕事の特徴は、①クリエイティビティ(企画)②マネージメント(管理)③ホスピタリティ(介護)の3つであると言われている。
これからの時代にどのような人材が求められるのだろうか。井上氏は次のように話す。『文系でもプログラミングをやってみると良いだろう。理系の人と仕事をする際に、仕事内容をある程度イメージでき、指示が出来る人材になれれば強い。また、クリエイティブな仕事に従事するために、文化的素養を身に着け、自分をブランディングできるようになるというのも良いだろう。そして、もちろん、AIの研究開発者や、AIを使った商品・サービスの提案ができる人材が求められるだろう。逆に、AIに負けないクリエイティビティやホスピタリティを持った人材、問題発見・解決能力を持った人材も重要だ。』
井上氏は、「今日話したことは衝撃的で、厳しい現実かもしれないけれど、ありもしない夢を語るよりもためになったことを願う。」と講演を締めくくった。
Q1.AIが人間の手に負えなく可能性があるのに、研究は止まらないのでしょうか?
A1.開発競争が止まることはないでしょう。
Q2.ディープラーニングのあり方について、AI同士で経験し学習していく方法が主流になるのでしょうか?
A2.現在はまだあまり行われていませんが、これからは増えていくと思います。
Q3.AIによる労働の代替や、ベーシックインカムの導入に伴って、働くことによる生きがいが失われないでしょうか?
A3.みなさんは一定の生活が保障されてても働きたいでしょうか?(聴衆一同手を挙げず。)働かなくても趣味などに人生に意味を見出すことは出来るので、労働機会の喪失が必ずしも生きがいの喪失にはならないと思います。
AIというSFのような話が意外ともう近い未来に迫っていることに驚きました。今日のAIの発展ぶりを聞いて、私は早々にAIと競うことを諦めました。「事務作業は、私のお昼休みの間にAIが終わらせてくれる」という時代が来るのでしょうか。これを悲報と考えるか、朗報と考えるかは、私たち自身がAIに取って代わられない価値を持てるかどうかにかかっていると思います。未だかつてない、個性重視の社会が訪れると考えたら、危機感と期待を感じないではいられません。
文責 田村莉乃