2017年度 第6回勉強会

エネルギー政策と環境問題 ~未来選択のジレンマ~

小田嶋電哲氏(藤野電力)


 10月20日、日吉キャンパスにて「エネルギー政策と環境問題~未来選択のジレンマ~」というテーマのもと、藤野電力の小田嶋電哲氏をお招きし、勉強会を行いました。地域を巻き込んだ電力自給を目指す小田嶋氏からお話を伺い、これからのエネルギー供給はどうあるべきかを考えました。

講師略歴


 1972年、東京都生まれ。2007年に家族ととともに藤野町へ移住。会社勤めの傍ら、地域の自立を目指すトランジション・タウン活動に合流し、地域通貨、森部等の活動を経て、震災を機に発足した藤野電力に参加。ひかり祭りでの100%電力自給プロジェクトを機に退職し、以後、藤野電力の活動に専念。住宅や事業所への自家発電設備の施工、お祭りイベント等への電力供給、ミニ太陽光発電WS、市民発電所の建設などに取り組んでいる。

藤野電力の始まり


 藤野電力ができたきっかけは、2011年3月11日の震災や福島の原発事故である。「毎日を安全安心に暮らすためには、エネルギーも従来通りの中央集権型から、住民が自ら参加出来るような自立分散型へ移行していく必要がある」という考えが地域に起こり、これに共感した人たちの間でサークルのようなものが形成された。小田嶋氏もこの考えに共感した一人であり、藤野電力で活動を始めた。

藤野電力とは


 藤野電力は、自然や里山の資源を見直し、 自立分散型の自然エネルギーを地域で活用する活動をしている。藤野電力は、主に相模原市緑区で活動しており、会社でもNPOでもなく、地域グループまたはサークルのような形態である。藤野電力は、エネルギーシステムの移行によってもたらされる地域の豊かな未来を目指している。具体的な活動内容は、次のようなものである。

1.お祭りやイベントにおける、再生可能エネルギーを活用した電源供給  

2.再生可能エネルギー発電システムを組立てるワークショップの開催

3.再生可能エネルギー発電設備の個人宅や事務所への施工

4.市民発電所の建設

5.効果的なエネルギーの使用方法の研究と共有

トランジション・タウン活動(※)―トランジション藤野


 藤野電力はもともと、「トランジション藤野」という活動のひとつとして始まった。この活動では、市民が自らの創造力を発揮しながら、地域の底力を高めることを目的とし、実践的な提案活動や市民運動を行っている。藤野電力が、このような取組みを実践し、地域の人達と共有を積み重ねることで、地域内に新しい繋がりを生み出すことができる。このことにより、市民が暮らす地域を、より暮らしやすく、災害時に強く、誰もが参加可能な場所に変えていくことを目指している。小田嶋氏は、この取り組みについて「三人寄れば文殊の知恵という意識でこの活動を広げている」と話す。

 

※トランジション・タウン活動

 2006年1月にイギリス南部の小さな港町「トットネス」で始まった持続可能なまちづくりを目指す市民運動を起源とする。日本初のトランジション・タウンの活動が、神奈川県の旧藤野町(現相模原市緑区)で行われている「トランジション藤野」である。

活動を推進するためには


 藤野電力は次のようなポリシーに基づき、力み過ぎず柔軟な発想を保って活動を推進している。

1.身の丈に合い、自分たちに可能な範囲内で、試行錯誤を楽しみながら、手仕事で活動

を行う。

2.巨大な電力網に接続せず、自立・独立して運用可能な独立型資源の使用を目指す。

3.オフグリッド(電力会社の送電線と繋がっていない電力システム)を推奨し、知識やノ

ウハウを共有する。

4.オープンソース(誰もが改変・改良できる状態)に活動を進めていく。

質疑応答


Q1.ワークショップやお祭りに費やす財源は、どのように確保していますか。

A1.お祭りの予算の中から支出したり、ワークショップ1回分の費用が集まらない場合は、地域の人から資金を借り入れ、売り上げを還元したりしていました。お祭りでは、収益がない時もあります。

 

Q2.太陽光パネルやバッテリーが実用的になった場合、物販として売るという考えはありませんか。

A2.商売意識が無く、会社同士の競合という観念も無いので、その考えはありません。また、太陽光パネルを物販として売り出すと、何らかの問題が発生した場合にPL法(※)という法律に抵触する危険性があります。そのため、活動の拠点であるワークショップでも、使用方法を参加者に共有することで、物販の危険性を回避しています。

 

※PL法(製造物責任法)…製品の欠陥により生命、身体又は財産に損害を被ったことを証明した場合、被害者は製造会社などに対して損害賠償を求めることができる。(消費者庁HPより引用)

 

Q3.活動において、一番大変なことは何でしょうか。

A3.やりたい人がやりたい時に活動し、その方法を共有するようにしていることです。我々の活動では役割分担もしておらず、メンバーの名簿も存在しません。そのため、徐々に情熱が薄れていくことも良しとしています。個人的には、身の丈に合った活動を推進しているので、「大変だ」とか「忙しい」という意識はありません。

所感


 小田嶋様は、藤野電力は会社やNPOではなく、あくまで地域活動であるというスタンスを維持し、「地域の豊かな未来を目指す」ということを強調されていました。また、ご自身の身の丈にあうような方法で活動する姿がとても印象的でした。

 私はご講演前、エネルギー問題をどこか人ごとのように思っていました。しかし、藤野電力の活動や「トランジション藤野」という地域活動を知り、一個人でもエネルギー問題と向き合うことができるのだと気付かされました。私たち一人ひとりが、小田嶋様のような責任感と行動力を少しずつでも芽吹かせていけたら、エネルギー問題は改善に向かって一歩前進するのではないでしょうか。

 

文責 小野寺理沙