5月26日、日吉キャンパスにて「住まいの未来 ~資源としての空き家~」というテーマのもと、「英語を使う人を増やし、外貨を稼ぐ人を増やし、日本を元気にする」というミッションを掲げ、Airbnb運営代行サービスの拡大に尽力されているZens株式会社代表取締役CEOの町田龍馬氏をお招きし、勉強会を行いました。空き家を民泊として活用する上で、欠かせない要素や観光業としての可能性について考えました。
1987年長崎県生まれ。17歳でニュージーランドの高校へ編入。9ヵ月で現地大学入学資格を取得し、オークランド工科大学ビジネス学部に入学。在学中に、シンガポールのナンヤン工科大学へ交換留学、高校留学エージェントの立ち上げ、バックパッカーとして東南アジア一周、自転車で台湾一周などアクティブに活動。2013年9月に会社を設立し、北東市場向けにFacebook分析ツールを開発。2014年8月よりAirbnbの内装・運営代行サービスを開始。同年11月に社名をZensに変更し、デザイン性やサービスレベルを重視したAirbnbを200件以上手掛ける。「英語を使う人を増やし、外貨を稼ぐ人を増やし、日本を元気にする」というミッションのもと、Airbnbビジネスのパイオニアとして、「ガイアの夜明け」「The New York Times」「とくダネ!」「あさチャン」「CNN」など多数の取材を受ける。また、「事業構想大学院大学」「民泊Expo」「パナソニックショールーム」などでの講演経験を持つ。著書に『中古アパート・マンションが生まれ変わるーAirbnb空室物件活用術』があり、Amazon不動産投資部門で1か月以上ランキング1位を獲得。
17歳の時、ニュージーランドの高校へ留学。その留学経験から、「早いタイミングで日本人に海外の人と接する機会を与えたい」という思いを抱く。1年間の高校への留学を終え、ニュージーランドの大学在学中に海外エージェントを立ち上げ、毎年留学先の高校に留学生として日本人を斡旋した。 留学した学生が、非常にたくましく成長する姿を見て、留学のマッチングサービスを立ち上げようと決意した。そこで、大学在学中にシンガポールへ交換留学し、留学中に出会ったシンガポールの友人と共に、誰でも簡単に留学先を決定できるサイトの準備を始めた。
大学を卒業後、東京へ戻り、いち早く日本で海外留学のマッチングサービスに取り掛かろうと考え、事業を開始した。しかし、その事業を進める上で、海外の会社にアウトソーシングやデザインを依頼することにこだわり、事業の開始が遅れ、類似の事業が先に発表されてしまう。
そこで、留学のマッチングサービスとは異なる事業を始めようと決意し、大学時代から興味のあったマーケティングの事業をするため、企業に中途採用で入社する。その企業で、ブログとソーシャルメディアを活用した会社のブランディングに取り組んだ後、自らマーケティングや海外へのアウトソーシング事業を始めた。
新たな事業を行う上で、「日本人に海外経験を与えたい」「日本人に起業家精神を与えたい」「日本を元気にしたい」という思いから、外国人と日本人のシェアハウスを企画するも、目的と手段が結びつかず、行き詰まってしまう。 その時にAirbnb(※)に出会い、「何かヒントが得られるのではないか」という思いから、自宅をフランス人に貸し出した。 この時、自宅に異なる価値観を持つ人を招き入れるという経験を通し、外国人宿泊への偏見や先入観が薄れていった。 町田氏はこの事業に魅力を感じ、ボランティアではなく質の高いサービスを低価格で提供したいという考えから、Airbnbの運営代行事業を始めた。
※Airbnb(エアビーアンドビー)…空き部屋やスペースなどを持ち、それを提供する人(ホスト)と宿泊施設を探し求める旅行客(ゲスト)をつなげるプラットフォームを提供するWebサービスのこと。世界190カ国34000以上の都市で100万件以上の物件が登録されている。
2014年8月にAirbnb運営代行事業を始めた当初は、自ら宿泊施設の清掃からお客様へのメッセージ送信までを担当していた。しかし、次第に社員やインターン生などを募集し、事業の規模を拡大した。 現在Zens株式会社では、海外留学の経験を持つ日本人だけでなく、日本の良さを海外に広めようという気概を持つ訪日外国人を社員やインターン生として雇用している。
Zens株式会社では、ゲストとホストの間に「会話」が生まれ、高級ホテルでも実現できないようなキメの細かいホスピタリティを目指している。訪日外国人向けの民泊を実現するためには、以下の4つの要素が必要となる。
ホテル業界において、零細企業は価格を変動させないという傾向がある。しかし、Zens株式会社では、時期や景気変動に応じて価格を最適化し、利益率を上げるようにしている。
Airbnbの評価は「総合評価」「清潔さ」「正確性」「値ごろ感」「コミュニケーション」「到着」「ロケーション」の6つの項目により構成されている。 また、総合評価の平均「5スター」獲得率が、80%を超えると「スーパーホスト」のバッジが獲得できるというシステムがあり、予約率やWebサイトの閲覧回数の向上が期待できる。そこで、Zens株式会社では総合評価の平均「5スター」獲得率80%以上を目指し、「民泊代行業者で日本一の成果を出す」ことを目標としている。
また、総合評価向上のために、他の項目についても「5スター」の獲得を目指している。例えば、「清潔さ」という項目での評価向上のために、評価の高い清掃員に優先的に仕事を回し、清掃の質を向上している。 また、UberやAirbnbなどのシステムに習い、清掃員が自分の都合の良い日時に勤務できるシステムを構築している。このような評価システムは、清掃員のインセンティブにも繋がっている。
Zens株式会社では、リノベーションやコーディネート、写真撮影をプロの写真家に委託することで、Webサイトのクリック率を向上させている
Zens株式会社は、近隣トラブルを回避するため、主に3つの取り組みをしている。まず、安全性を保つため、ゲストの審査やウェルカムガイドを準備し、物品の損壊を防止している。次に、ゴミの出し方をサポートするために、ゴミ出しガイド、室内用ポスターを作成し、トラブルを未然に防いでいる。 最後に、騒音トラブルを避けるために、騒音センサーやインターネット電話、24時間コールセンターを設置している。
京都の簡易宿泊所は、訪日外国人向けの民泊を実現する上記の4つの要素を達成し、大成功を収めている。この簡易宿泊所は、Zens史上No.1の圧倒的な高評価を受けており、利用者からのレビュー(評価)の書き込みも長文で丁寧に書かれている。この成果に繋がった要因は、ホストによる最寄り駅への出迎えや部屋の案内、徹底した清掃と相手に合わせたプレゼント、立地・内装・コンセプトの良さ、部屋で実施する書道や茶道体験(別料金)など多岐にわたり、ホスピタリティ精神に溢れたものが多い。
また、事前にホストとゲスト間がインターネット上でメッセージのやり取りをするため、ホストとゲスト間のつながりが形成され、実際に会うとそのつながりはより深くなる。 このようなおもてなしに加え、他にも宿泊所を差別化するこだわりや工夫がある。例えば、コンセプトが設定された部屋や版画・竹で作ったオブジェなど伝統的なインテリアの装飾がされた部屋、外国人が食事をしやすいようにダイニングテーブルが設置された部屋などがある。
講演の最後に、町田氏からこれからの日本を背負っていく私たち学生へのメッセージが贈られました。
『近年グローバル化が進むなかで、日本人は「英語が話せない」「外国人が怖い」という理由から、海外に触れる機会を逃している。 私は、留学し英語を話した経験から、新たな問題意識を持ち留学のマッチングサービスやAirbnb運営代行事業に取り組むことができた。 何事も、実体験を通してでしか自信は身につかない。その経験はできるだけ若い年齢でなされるべきであり、学生の皆さんには、若い時から実体験をたくさんし、自信を身に付けて欲しい。』
Q1.一般的に、民泊においてトラブルが起きた時、責任は誰にあるのですか。
A1.最終的な責任はホスト(部屋を貸し出す人)にありますが、Airbnbの場合、ゲスト(ホストに迎えられる人)のけがや死亡、物品の損壊に備えて、不動産を所有するオーナーへの保障もあります。
Q2.新しい技術の情報を得たり、その技術を使用するために、具体的にどのようなことをされていますか。
A2.海外のテクノロジー系の論文や雑誌などにアンテナを張り、自ら積極的に情報を得るようにしています。また、その際に日本語に翻訳されたものを待つと技術の習得が後れてしまうため、英語で書かれた原文を読み、なるべく最新の情報を得るようにしています。
Q3.京都府や奈良県などは観光資源が豊富ですが、観光資源に恵まれない地域もあります。そのような地域に訪日外国人を呼び込むために、どのようなことを大切にされていますか。
A3.その土地が持つ景色や食事、文化などの魅力を複数の言語でオンライン上に発信すること、体験型アクティビティを宿泊費に含め、付加価値を高めることが大切です。ただし、そのエリアのPR効率を上げるために、一つのエリアを複数の会社でPRするのではなく、一社で取り扱うことが大切です。
今回の講演では、普段あまり意識することのない空き家について、その存在から活用までを伺いました。 町田氏が積極的に情報収集を行う姿勢から、物事を受け身で待つではなく、自ら積極的に動いていくことで道が開けるということを再認識することができました。 また、「若くから実体験をすべき」という言葉がとても印象的で、学生時代から様々な体験をしようと思いました。
文責 喜田裕太