10月7日、日吉キャンパスにて「医師不足と医療破壊〜これからの日本医療〜」というテーマのもと、医師不足解決のために予防医療に取り組むケアプロ株式会社の川添高志氏のビデオと財政破綻した北海道夕張市の医療の現状についてのビデオを鑑賞し、リフレクションに向けた勉強会を行いました。
ケアプロ株式会社では、病気の早期発見や健康に対する意識付けとして、手軽で低料金の採血検査による健康診断サービスを提供しています。このサービス最大の特徴は、自ら採血を行うため医師が不要であるということです。そのため、駅前や郵便局、市役所など、人が集まる場所に「ワンコイン健診」を設置することで、手軽に自身の健康状態を把握することが可能になります。簡易検査であるため、信用度は医師による精密検査には劣るものの、市民への健康の意識付けという観点では、予防医療の革新的なアイデアといえるでしょう。
社長である川添氏は元看護師であり、看護師時代に早期発見が遅れたことが理由で、莫大な医療費と痛烈な痛みに苦しむ患者たちの様子を目の当たりにし、予防医療を全国に普及させたいという思いで、ケアプロ株式会社を創業されました。このような予防医療が全国に普及すれば、私たちの健康維持に役立つだけではなく、医療費という視点からも財政支出を減らす一助となるかもしれません。
夕張市と言えば、夕張メロンや2007年の財政破綻を思い浮かべます。そのような夕張市は、日本で最も高齢化が進む地域の一つであり、高齢化率は45.6%にもなります。財政破綻によって、医療への公共支出も大幅に削減され、夕張市内の病床数はたった19床になり、医療機器のCTやMRIは一台もなく、救急車は平均で1時間もかかるようになりました。いわゆる、「医療崩壊」です。
しかし、夕張市では予想を覆す事態が発生したのです。救急車の出動回数が約半数に低下し、高齢者一人当たりの医療費も低下、さらに疾患別死亡率も低下しました。このような事態の背景には、夕張市民一人ひとりの予防意識の向上があります。医療崩壊により、夕張市民は生活習慣を改め、生活習慣病の予防に成功しました。また、終末期医療の対応のイメージを各人が持つことや地域社会による共生の文化がこうした予防に役立ったとも推測されます。このように、医師不足が叫ばれる昨今、最も大切なのは医師数の増加ではなく、予防による患者数の抑制なのかもしれません。
今回の勉強会を通じて、日本の医師不足の解決策は医師数の絶対的な増加だけではなく、患者数の減少にもあると思いました。日本政府は、国民に対し、健康という理念を提示するだけではなく、一定期間健康であった国民に報奨金を与えるなど、健康であることへのインセンティブを与えることが必要であると思います。
次回は「さらなる医学部の新設は国民にとってプラスであるか」というテーマのもと、ディベートを行います。少子高齢化が喫緊の問題となる中で、医師の量と質のバランスをいかに保つのかについて、医師という立場だけでなく患者という立場からも検討していきたいと思います。
文責:平野天