2016年度 第3回勉強会

労働市場のミスマッチ ~働くということ~

坂田祐一氏(HELPMAN JAPAN ユニット長)


 5月27日、日吉キャンパスにて「労働市場のミスマッチ~働くということ~」というテーマのもと、坂田祐一氏をお招きして勉強会を行いました。   

 労働者不足に悩まされている業界に、建設業界や介護業界があります。今回の勉強会では、有効求人倍率が2倍を超え、労働需給のミスマッチが深刻な介護業界に焦点を当てました。現場の最前線でご活躍されている坂田氏が、介護業界に入って気づいたこと、介護業界を取り巻く環境、現状の課題解決に向けてどのような取り組みをされているのか、そして「働く」ということについて、ご講演いただきました。

介護業界の現状


 日本は、人口の4人に1人以上が65歳以上という超高齢社会を迎えており、世界と比べても圧倒的なスピードで高齢化が進んでいる。この問題は、世界でも注目されており、今後他国は、日本の事例を参照して施策を行うだろう。  

 急速に進行する高齢化と介護は切っても切り離せない関係にある。介護業界の最大の課題として、離職率の高さが指摘される。現在、年間で13.4万人が介護業界に入っていくにも関わらず、22.4万人が離職するという異常な状態が続いている。そのため介護業界は、知識を持った人が中々蓄積しにくいという性質を抱えており、これが人手不足の大きな原因となっている。

「HELPMAN JAPAN」ができるまで


 このプロジェクトが始まったのは、介護との出会いがきっかけだった。祖母が高齢になり、介護の力を借りた時、そこで出会った人々の姿に感銘を受け、この人々にもっとスポットライトを当てるべきだと感じた。また、ちょうどその頃、会社の人材分野を成長させる立場にあったが、リーマンショックが日本を襲い、就業できない人が増えていた。だからこそ、このタイミングで介護業界にもっと人材が集まる仕掛けができればと考えた。 

 私は、介護について詳しくなかったので、まずはボランティアとして現場で学んだ。その時にある職員の方に、介護業界には、「HELPMAN JAPAN」という漫画があることを教えてもらった。私はその漫画を読み深く感動したため、作者に何度も掛け合い、賛同を得て、事業として「HELPMAN JAPAN」が誕生することになった。

「HELPMAN JAPAN」の取り組み


 主な事業としては、「CHEER UP!」と「GROW UP!」という研修プログラムがある。 

 

 「CHEER UP!」とは、介護職員1年目を対象とした研修プログラムで、新入職員のつまずきや心のケアを通じて、モチベーションを上げ職場に定着してもらうという事業である。昨年度研修を行った介護現場では、約500人が受講。97%が定着するという実績を残している。これは、介護業界の平均である定着率66%から考えると驚異的な数字であり、奇跡のプログラムと称されている。  

 

 「GROW UP!」とは、介護職員2~5年目を対象とした研修プログラムで、経験を積んでいく中で、より高い視野をもって活躍できる人材を育てることを目的としている。 これらのプログラムに参加する施設は、人を大事にする、きちんと育てるという方針を持った法人である。介護の人材不足は新規就業者を増やすよりも、現在働いている人を大切にする方がずっと効率が良い。そのため、私たちは人を大切にする会社を応援している。

介護業界の将来


 介護業界は将来伸びていくことが約束されている業界である。なぜなら、人口構成から見て分かるように、今後も高齢者の数は増え、必要とされる仕事が増える拡大産業であるからだ。この分野で起業するというのは他の分野よりも有利と言えるだろう。なぜなら、国内の市場だけでなく、海外の市場も視野にいれることができるからである。

「働く」とは


 働くということは、勤める起業の看板を背負うということであり、顧客からすれば入社1年目も10年目も関係ない。だからこそ、プロ意識を持つことが重要である。だだ単に、仕事に追われるのではなく、自分のやりたいことや楽しみを見つけることも必要である。50%はプロとして、もう50%は自分の思いを重視して働くという働き方もある。
 機会はやってくる。だから、凝り固まった固定概念や解釈を持ち、SNSに左右されるのではなく、自分の目で異なる視点から世界を見て、プロ意識を持った上で、自分のやりたいことをすることが大事である。

質疑応答


Q1.もともと教師になろうと思ったという話がありました。それでも、リクルートで仕事を続けていらっしゃるのはなぜでしょうか。

A1.教師に何としてもなりたかったわけではなく、教師になるなら一度社会人を経験してからなろうと思っていました。しかし、この会社がとても楽しく、自分を成長させてくれたので、この会社で恩返しという意味でも働き続けています。

 

Q2.50%はプロとして、50%は自分の思いのために仕事をするという話がありました。結果を出すことが求められる仕事で、どのように自分の思いを実現させようとされていたのでしょうか。
A2.まずは、結果を出すのが最優先だと思います。しかし、結果をどのように出すかは比較的自由に選択することが可能でした。できれば自分の思い入れがあることで会社の要望する結果を残すことができればと、それを自分の思いの50%として仕事をしていました。

 

Q3.介護業界では、入職した人を対象に離職率や適合性などの様々な追跡調査が行われているとのことでしたが、他の業種でも行われているのでしょうか。
A3.行われています。そして、それをもとに入職する人を対象とした適正検査などが行われ、就職のミスマッチを減らすのに役に立っています。

 

Q4.実際の現場を見て、介護のイメージは変わりましたか。
A4.変わりました。一人の方をケアするにしても何通りものやり方があり、現場ではたくさんの工夫が行われています。自分の目で見ないと分からないことも沢山あると思います。

 

Q5.労働者不足の解決の手立てとして、労働者の増加以外に労働生産性の上昇が挙げられると思うのですが、後者についてもう少しお話をお願いします。
A5.生産性というところですが、介護の業界は他の業界と比べるとまだまだ効率化が進んでいません。一方で、ITやテクノロジーの活用も少しずつ始まり、今後さらに進んでいくと思います。

 

Q6.「HELPMAN JAPAN」として活動する以前に得た、他業種での様々な経験の中で、最も介護業界でのお仕事に活きていることは何でしょうか。
A6.簡単に言えば、業界比較ができたことです。例えば、介護業界で働く方は、他の産業で働く方と比べても採用に力を入れられることが沢山あります。他にも、職員募集を簡単な張り紙程度で済ませているだけなのに、「人が足りない」「人材不足だ」と嘆いています。このようなことは、他業種と比べればあり得ないことで、その改善を支援することができました。

所感


 今回は介護業界ということで、自分たちもいつか関わることになるだろうと感じながら講演を聞いていました。人材不足は新規就業者が少ないことよりも、離職率が高いことによるものだという事実には驚きました。また、50%はプロとして、50%は自分の思いのために仕事をするということは、どんな仕事でも自分でやりがいや楽しさを見つけていくという意味でも大切なことだと思います。

 

今回ご講演いただきました坂田様、ありがとうございました。

文責 齊藤涼太郎