2015年度 春合宿②

一億総活躍社会 ~観光~

加藤文男氏(株式会社ちば南房総取締役)


 2月9日、オリンピック記念青少年総合センターにて「希望を生み出す強い経済―地方観光産業のこれから―」というテーマのもと、元南房総市企画部長の加藤文男氏をお招きし、グループBの勉強会を行いました。

略歴


 1950年千葉県生まれ。高校卒業後、安房郡富浦町(現南房総市)役場に就職。1991年観光・企画課長、1992年道の駅「とみうら枇杷倶楽部」駅長、2003年富浦町役場総務課長。道の駅での功績(全国道の駅グランプリ2000 最優秀賞受賞)が認められ、2004年国土交通省「観光カリスマ百選」に認定される。2009年4月より現職。2010年10月から、JICA草の根技術協力事業「南房総の『道の駅』の知見を活かした住民参加による地域振興」のプロジェクトリーダーを務める。最近では、茨城県など他県でも講演活動を行っている。

なぜ観光産業なのか


 過疎地域の一番の問題は、人口減少による経済の縮小です。南房総市の人口は、現在44000人ですが、2025年には35000人となり、9000人の減少が見込まれています。これによる経済的損失は約120億円に昇ります。この損失を賄うためには、企業誘致などがありますが、労働集約型の事業は中々日本に戻らないため、厳しい状況です。また、農業誘致もTPPなどの影響で難しいと見られます。そのため、このような状況では、観光産業に注目するしかなく、具体的には350万人の観光客の増加によって、前述の損失を賄うことができます。

枇杷倶楽部のシステム


 枇杷倶楽部は、地元住民のみが知る情報を用い、複数の小さな観光資源を束ねることで観光客を集めています。枇杷倶楽部が主導して観光資源を束ね、観光の窓口となることで、旅行会社も枇杷倶楽部と連携するだけでツアー全体を統括することができます。また、クレームなども枇杷倶楽部が請け負うため、旅行会社にとって非常に魅力的です。また、富浦町には、枇杷しかなかったため、枇杷による商品開発を行いました。品質によって用途を分け、最良品はそのまま東京へ出荷、それ以外はソフトクリームやジャムなどの加工食品として出荷しました。そして、この枇杷ソフトがヒットし、商品開発の核となっています。また、それだけではなく、お客のスタイルに合わせた企画を行い、情報を発信していくことで、お客を集めています。 枇杷倶楽部は、公的な黒字組織を作ることで、文化事業展開や情報発信型観光、加工技術のプラットホームになることを目指しています。また、枇杷倶楽部は、当初とても小さく、増築を繰り返して現在の形になりました。今後何かを始めるときは、最初は未完成のものを作り、その後、お客のニーズによって増築を行い、お客に合わせたものを作ると良いでしょう。

一括受発注システムとは


 一括受発注システムは、観光協会に代わり、枇杷倶楽部が地域資源を集約した観光ツアーを企画し、観光会社へ営業する仕組みです。これにより、地元住民しか知らない観光プランの提供ができるだけでなく、枇杷倶楽部が、料金精算やクレーム処理を一括して請け負うことで、作業が円滑に進み、融通を利かせることも可能となります。

観光地の成熟のために


 私は、観光客がずっと増え続けていることに誇りを感じています。観光産業は、観光客が季節を問わず、絶えず来てくれないと成熟しません。行政は観光客を増やし、平準化していくことが大切であり、そうすれば、観光地は成熟していきます。富浦町では、観光客数を平準化していくため、一括受発注システムを利用し、いちご狩りや寿司、ミカン狩りなどを季節ごとに行っていました。これにより、繁盛期と閑散期との売り上げの差はかなり縮まりました。

日本の課題


 道の駅の認定基準に設置場所の基準がなく、設置する自治体の都合で建設され、災害発生時に道の駅自体が被災してしまう可能性があります。道の駅は認知度が上がり、災害発生時には観光客が駆け込める一時的な避難所にもなりますから、食料だけではなく非常電源や複合的な通信手段の確保も重要ではないでしょうか。

 また、道の駅は自治体の費用で建設される訳ですから、採算性の確保と共に、地域の産業や雇用にも貢献する経営姿勢が求められると思います。

質疑応答


Q1.観光資源の乏しい地方において、産業を興していくにはどうしたらいいでしょうか。

A1.そもそも、観光資源とは五感で感じるもの。そう考えると、地方に観光資源が乏しいとは言えなのではないでしょうか。

 

Q2.外国人観光客をターゲットにしているのですか。

A2.なぜ外国人観光客が重宝されているかというと、一人当たりの使う金額も多く、滞在日数も多いからです。

 

Q3.旅行回数は、日本人の方が外国人より多いのではないでしょうか。

A3.まず理由の一つとして、新しいもの好きなマスコミが挙げられます。マスコミが新しいものを取り上げがちなので、自然と外国人観光客に注目が集まります。二つ目は、成長の余地です。国内旅行産業よりも外国人を対象にした観光産業の方が、まだ伸びしろがあり、成長させやすいからです。

 

Q4.南房総以外の地方地域には何が足りないのでしょうか。

A4.観光客を誘致しすぎても場所が足りなくなってしまうので、少数の観光客の誘致しかできません。その少数の観光客を、仲間同士で共有する必要があります。つまり、観光客に1つの観光地だけではなく、複数の観光地・観光資源に触れてもらう必要があります。そうすれば、観光客が少なくても効率的に観光客を得ることができます。しかし、その中に不正をする人がいると全員の損失となります。また、観光には観光協会以外に、OSの役割を果たすシステムなどが必要です。

 

Q5.去年の春合宿で、いちご狩りを富浦町で行おうとしたら、団体客の受け入れをしていなかったのですが。

A5.個人客の方が厳しい目を持っているからです。不味かったら来なくなるので。私たちのいちご園は実験的なことをしていて、そういった個人の意見を求めていますから、団体客を受け入れていません。

 

Q6.加藤様のベトナムでの事業についてお話を伺いたいです。

A6.田舎役場での経験を生かせるということで、JICAの事業として派遣されました。公設民営である日本と違い、民設民営であるベトナムは、長距離バスの事故を防ぐために一定距離間に道の駅を作りました。

所感


 一億総活躍社会で掲げられている訪日観光客消費額3兆円を達成するためには、やはり地方における観光産業の振興が不可欠であると、私も考えていました。そうすると、地方観光の一部である道の駅の成功も大切なことであり、今回のお話は、これからの地方観光産業に生かされていくべきであると感じました。公設公営であっても、集客方法や黒字化にもっとこだわった経営や戦略をとり、観光客誘致に全力で取り組むという姿勢が、これからの観光産業の未来を決めていくのではないでしょうか。

                                                                 文責 斎藤優気