2月10日、春合宿にて「安心につながる社会保障~介護離職者0~」というテーマのもと高平ゆかり氏をお招きし勉強会を行いました。
1957年、東京都出身。2006年、産業能率大学大学院経営情報学研究科修了(MBA)。1986年、商社系人材派遣会社「メイツ(旧エム・シー・メイツ)」に入社。1995年、社内の高齢特例派遣事業「シニアビジネスセンター」に従事。2011年、マイスター60入社。2014年から常務取締役を務める。
株式会社マイスター60は1990年創業。「年齢は背番号 人生に定年なし」を理念に掲げ、これまで約6000人の高齢者雇用を創出してきた。
株式会社マイスター60は、「雇用機会を創出し、人々の生きがいを弘め、生涯現役文化をひらきます」という企業理念のもと、1990年に創業されました。会長の平野茂夫氏は、知識も経験も意欲も健在な人が定年を迎えた途端、仕事を持たない「ただの人」になってしまうことに疑問を感じ、日本の定年制に風穴を開けるビジネスモデルの創造を目指しました。55歳定年の時代において、株式会社マイスター60は既に60歳新入社、70歳希望退職を掲げており、新聞広告により多くの就職を希望する高齢者が集まりました。ここで、次の3つの事業のコンセプトを制定しました。それは、「高齢者の職場づくりや雇用の開発に努め企業の社会的責任を果たすこと」、「高齢者が定年後も引き続き就業することの社会における正当な位置づけと認識づくり」、「熟練技能やスキル、ノウハウ保有者のダムづくり」です。これらのコンセプトに基づいて発展を続け、2015年現在、累計約6000名を超える高齢者の就労支援を果たし、更には70歳現役をも実現しています。人材派遣や職業紹介などを行い、社会的な課題の解決に向け真摯に向き合う企業であるといえます。
現在、高齢者雇用安定法により、企業に高齢者の継続雇用や定年の引き上げが求められています。それでは、企業側は高齢者雇用をどのような視点で判断しているのでしょうか。「総人件費の増大」に最も関心を示し、「健康面での配慮責任の増大」と続く結果となりました。若手社員の場合、企業が支払う給与よりも、大きな労働力を得られますが、高齢者の場合にはそれが難しいという認識が広がっているのです。また、シニア社員が不活性化している職場がある一方で、活性化している職場もあり、それぞれ異なる特徴を持っています。不活性化している職場では、企業側がシニアをマネジメントしきれていないのに加え、高齢者雇用に関してアレルギーを持っていたりします。企業側だけではなくシニア社員側にも問題があり、自己の職務遂行能力や技能の陳腐化、処遇や会社への不満によりモチベーションが低下し働かなくなってしまうのです。こうして、相互不信の関係に陥ってしまい、職場が不活性化してしまいます。他方で、活性化している職場では、対照的に企業側のマネジメントが上手く機能し、シニア社員も環境の変化に柔軟に対応し、企業へ貢献するという相互信頼の関係に繋がっています。以上より、高齢者をコンプライアンスの面から仕方なく採用するという考え方を改め、高齢者を戦略的に雇用することで、いかに企業の業績に結び付けるかを考えていく必要があると考えられます。
いかに職業人生を長くするかという側面に立ち、高齢者雇用の市場を作っていく必要性があります。シルバー人材センター、ハローワークなどの公的機関に民間の流れを組み込むことで、官民連携して課題の解決に取り組み、より安定的な市場を作り出すことができますが、現状では、シルバー人材センターなどの中には、役所のように堅い側面があるということもあり、民間の感覚を持ち、高齢者の就労支援の機能を果たす必要があります。また、実際に行われている顧客創造型ビジネスとしては、3つのものが挙げられます。1つ目は、体験型意識改革研修と題して、シニアの方が再就労前に行う「シニアインターンシップ」。2つ目は、観光地に出店を構え、海外に駐留経験があるなど外国語での日常会話ができるシニアの方が外国人のおもてなしをする「おもてなしシニア隊」。3つ目は、公務員を退職されたシニアを民間に戻す、「公務員人材のセカンドキャリア支援」です。このような取り組みで一億総活躍社会の実現に向けて活動しておられます。
高平氏からこれからの日本を背負っていく私たち学生へのメッセージが贈られました。
「自分の職業人生に関心を持ち、職業のコントロール力を高めていってほしい。それを得るためには、日ごろから困難なことや苦しいことにから逃げないことが大事であり、それを成長の機会と捉えると良い。また、自己の可能性を探求する好奇心を持ってほしい。やったことがないことを出来ないというのは自分に制限をかけてしまっていて、もったいない。できると見込まれたから頼まれたのであり、新たに挑戦してみることが大事である。最後に、自分の大きな志の追及、挑戦し続ける姿勢を持ち続けてほしい。自信はそう簡単に身につくものではない。少しずつ到達点を伸ばして、積み重ねてきた経験が自信に繋がる。試行錯誤や失敗を繰り返しながら、自信を持てるようになれば良い。」
Q1.マイスター60で従業員の方の健康面に配慮していることはどのようなことですか。
A1.健康診断を適切に実施してもらい、再検査の受診も確認しています。また、本人の希望に寄り添った労働時間の提案・ワークシェアリングを重視しています。体調には個人差が大きいため、些細な変化に気を付けています。
Q2.シニアの方(特に男性)の自尊心を傷つけないために、気をつけていることはありますか。
A2.シニアの方は、突然物事を言われることに対して、ある種の怯えがあり、それによって怒ってしまう方が多いです。そのため、決定事項などは会議等の前にあらかじめ報告しておくようにしています。シニアの方は褒めると効果があり、そのようにアプローチしていますが、コンプライアンスの問題などだめなことはだめとはっきり伝えています。
Q3.高齢者雇用に関して職種による規制は必要ですか。
A3.迅速な判断力を要するバスの運転手など、シニアの方ではリスクが大きい職業に関しては、規制が必要だと思います。しかし、海外のスチュワーデスがシニアの方であった例が顕著に示しているように、日本では高齢者雇用が進んでいないのが現状があります。一定の規制をしつつ、変わっていくと良いのではないでしょうか。
Q4.キャリア・ノンキャリアの方の割合はどの程度なのでしょうか。
A4.専門資格を保持するハイエンドの方が30%程度、専門資格を持たないローエンドの方のほうが多いです。ハイエンドの方には一級建築士や施工管理などより専門性の高い仕事を担うと良い循環が生まれます。ローエンドの方は、機械では取って代わることのできないサービス業をメインに就業支援をしています。
高平氏の講演をお聞きし、高齢者雇用の分野は課題が多い一方、希望や可能性も十分にあると感じました。ますます少子高齢化が進行していく中で、それを否定的に捉えるのでなく、肯定的に活かす発想を知ることができ、とても新鮮でした。また、私たちが人間としてどのように歩んでいくべきなのかということにも言及してくださり、自分を見つめ直す良い機会となりました。大学という恵まれた環境での学びをより実りのあるように、そして社会に貢献できるものにしたいと感じました。
文責 安藤慧