10月31日 日吉キャンパスにて「食生活の変化と健康問題」のテーマのもと、地域活性コンサルティング・合同会社五穀豊穣の代表である西居豊氏をお招きし、勉強会を行いました。
学生時代から多くのビジネスに取り組み、現在はご自身で起業された地域活性コンサルティング・合同会社五穀豊穣の代表としてご活躍される西居氏。その原点は小さな頃から経済の仕組みを意識させられるような環境で育って来たことにあるという。小学生時代に自宅前で駄菓子を売る小さな商売をした経験から、サービスを提供し、その対価を得るという仕組みが商売にとって重要であることを知った西居氏は、その後中学高校生活を通して、どうしたら人が喜んでくれるのか、そして利益を得ることができるのかを考え、常にチャンスを窺う姿勢を身につけたそうだ。
大学時代でも様々なアルバイトを経験する中で、工夫次第でビジネスに結び付けられるようなビジネスの種を探し続けたという。例えば、パッケージに不備があるために商品が工場の段階で数多く廃棄されていることをアルバイトの経験で知り、そこからヒントを得た西居氏は酒屋から賞味期限の近い酒やラベルのずれた酒を安価で買取り、学生向けの格安バーを開業した。その他にも教科書転売事業やノート販売事業、大学のポータルサイト運営など、様々なビジネスを考案、実現し利益を上げたという。このような経験から、経済の仕組みを意識した持続可能なビジネスを行うことの重要性を学び、実践してきたと西居氏はお話された。
現在行っている食の事業を始めるきっかけとなったのは、地方の農山漁村に若者を送り込み、定住を促進する事業に携わったことだったという。西居氏はその事業の中で農山漁村には多くのビジネスチャンスがあるにもかかわらずそれが活かされていない現状を目の当たりにし、その状況を変えるために農山漁村の復興やそれを支えるための体制づくりを支援する決意をされた。多くの関係者の話をお聞きになるうちに西居氏が感じた一次産業の構造的な欠陥とは、消費者が商品の価格を決定することだ。一次産業の商品は需要と供給の関係で価格が決定するため、生産者は育成や出荷の時点で生産物の価格を知ることができない。これが、一次産業が儲かるビジネスになりにくい原因であるという。このような現状を踏まえ、西居氏は生産者だけではなく、消費者の意識変革も重要だとお考えになった。消費者が金額を決定する産業構造であるならば、消費者が商品に対し高い価値を見出すことができるような工夫をすれば、一次産業がより良いビジネスになるとのお考えからである。
そこで西居氏が最初に行ったのは、農家や漁師の方々と小学生が学校でふれあうことのできる機会をつくることだった。普段身近な存在ではない一次産業について小学生が詳しく知ることで、将来その子どもたちが国産の商品を購入するようになることが狙いだという。
このような取り組みの中で、西居氏は日本の学校給食や食生活の現状を理解したという。日本人が和食を食べなくなっていると言われるようになって久しいが、その傾向は年々強まっており、現在、日本人の朝食の3分の2がパン食、夕食の3分の1がパンか麺食である。野菜と魚を中心としたおかずでご飯を食べるという基本的な和食のスタイルは、家庭の食卓から失われつつあるのだ。給食においても状況は同様で、現在給食にお米が出る回数は平均週3,3回であり、和食の献立の回数が少なくなっている。この背景には、子供たちの三角食べの未発達や味覚の変化、残食を避けたいという給食提供側の事情である。また、国や行政機関による給食献立の指標や定義が明確に示されていないこともあり、給食の献立が子どもの好む内容に傾いていき、結果的に現在和食の献立が減少したという。
和食文化がこのように危機的状況にあること、また2013年12月に「日本人の伝統的な食文化」としてユネスコから「無形文化遺産」に登録されたことをうけ、西居氏が始められた取り組みが「和食給食応援団」である。これは子どもたちに和食の魅力を伝え、和食文化を次世代に継承することを目的としており、日本料理人を中心に、学校給食に応用できるような給食献立の提案や、実際に小学校に赴いて小学生やその親、先生、栄養士に和食の魅力を伝える取り組みを進めている。
給食献立にあまり和食を出せない理由を調査したアンケートでは、原因として以下のような意見が上がっていた。和食の献立がわからないこと、地元のパン会社・麺会社との関係、残食の多さ、コスト増、食器の洗浄の手間、都道府県、市町村区の制限があることなどだ。しかし上記のような問題は工夫次第で解決できるものであるという。和食があまり食卓に登場しないようになって久しいが、子どもも大人も和食の魅力や調理方法を知らないだけであり、それを教える努力をすれば和食文化は次世代へと受け継がれていくはずだと西居氏はお話しになった。その方法として、単なる食事のみならず、教育の手段でもある学校給食は和食文化を次世代に伝えるための「最後の砦」なのである。
学校給食と同時に、地域活性にも取り組む西居氏だが、地方の人達と関わる中で感じたのは、地域の再興には経済の仕組みと地域の人々の努力が不可欠であることだという。国の補助を待つのではなく、地域の人々が自力で地元の産品を外に売り出し、外貨を獲得して経済をまわしていく努力をすることが必要であり、そのような努力を後押しする仕事も西居氏は行われている。学校給食に和食献立を増やす取り組みは、伝統食文化保護の取り組みであると共に、地域の農家の雇用を増やす取り組みの一環でもある。このような努力を農家の方々が積極的に行っていくこと、また消費者も和食文化、国産農業の大切さを心に留めておくことが重要であると西居氏は強調された。
最後に西居氏は大学生である私たちに向けてアドバイスを下さった。将来どのような仕事に就くにしても、絶対に忘れてはならないのは経済である。この視点は就活の際に会社を見る基準として役立つという。また社会に出た後も、儲けの出る、つまり社会に求められるものを作り出す能力が必要となるとのことだった。さらに、大学時代では一つの目標に的を絞って行動し、自分の中で経験やスキルを積み上げることが大切だと激励してくださった。
Q、アイデアを出すコツは何か。
A、昔から、物事の原因、背景を追求する癖があった。目の前の物事を当たり前と思わず、それについて多くの疑問や仮説を見出す。また、1日の自分の行動を寝る前に振り返るなど、反省とそれを踏まえての挑戦を繰り返したことが多くの良いアイデアにつながっていると思う。
Q、アイデアを儲けの出るシステムにまで発展させる方法は何か。
A、常に「誰が喜んでくれるのか」について考える。その上で、サービスを与える対象だけではなく、「誰がサービスを提供すれば喜ばれるか」にまで考えを広げ、出資者を確保することが重要。たとえば、現在の給食事業は国やメーカーの補助を受けて行われている。それは、日本の伝統食保護事業を行うことで国民、消費者から「喜ばれる」というリターンがある国やメーカーは、事業の出資者たりうるからである。
Q、失敗を乗り越える方法は。
A、大切にしているのは行動のスピード。他の人よりも多くの回数行動すれば、それだけたくさんの経験やスキルを詰むことができる。失敗をしてもそれが次の成功につながると考え、失敗を恐れずにスピード重視で物事を進めた。
Q、面接やコンペなどで大切にしていることは何か。
A、クライアントの立場で物事を考えることだ。自分のやりたいことを押し付けるのではなく、クライアントが何を求めているのかを考える。クライアントの問題設定や要求に誤りがある場合は、クライアントの要求に沿った提案と自分の考えた提案を両方提示することもあった。
今回お話を聞いたメンバーは、西居氏の行動力に驚いていたようでした。もちろん行動力にも驚きでしたが、それよりも私が驚嘆したのは、西居氏が自分の理想やアイデアを実行に移す前の調査や準備でした。実際、西居氏は現在の事業を行う準備として、多くの書物を読んだり、たくさんの料理人や生産者などに会ったりして知識を深めていったそうです。西居氏と同じように、孔子は論語の中で、「子曰、蓋有不知而作之者、我無是也、多聞擇其善者而從之、多見而識之、知之次也」と説き、調べることの大切さを述べています。私はよく物事を知らないのに、行動して失敗してしまった経験があります。だからこそ、西居氏の話を聞いてこれからは、多くの情報や知識を得て、それを取捨選択してから、行動しようと思いました。
今回御講演いただきました西居豊様、ありがとうございました。
文責:友澤達也