2014年度 第4回勉強会

―経済発展と環境問題―

大塚寛氏(セグウェイジャパン株式会社代表取締役)


 6月25日、日吉キャンパスにて「経済発展と環境問題」というテーマのもと、セグウェイジャパン株式会社代表取締役社長の大塚寛氏をお招きし、勉強会を行いました。


ご自身の経歴


 まず、大塚氏は御自身の経歴についてお話された。大塚氏は1995年にスーパーコンピュータの会社である日本クレイに入社された。2年後に日本クレイは日本シリコングラフィックス株式会社と合併。2007年まで同社で12年間営業やマーケティングを担当された後、GMOに入社された。その当時から技術発展の速度は著しく、当初は1億円であったCPUが技術の発展と大量生産によりあっという間に5000円になるような激動の時代であった。その経験から大塚氏は、ハードウェアからソフトウェアの時代への転換期が訪れていること、日本は産業ロボットに固執しすぎであるということ、そしてITに携わる人間がそのクリエイティビティを活かしてロボット開発を行うべきであることを感じられた。その結果として大塚氏は、デザイン・要素技術・モビリティという3つのロボットビジネス哲学を生み出されたという。


現在のロボット開発


 さらに氏は、ロボットを用いて今まで行ってきたことや、これから実践しようと思っているプロジェクトについてもお話された。過去のプロジェクト例のひとつとして紹介されたのがマネキン型ロボット「Pallet Robot」である。このロボットをマネキンとして用いてアクセサリーや洋服の展示会を開催するプロジェクトが行われた。マネキンが動くという斬新性から、効果的に商品を展示することができたそうだ。 


 また、現在は感情認識技術の開発にも取り組まれているという。感情認識とは、人の声から人間の感情を割り出すことのできる技術である。音声認識に留まらず、感情まで認識するロボットを作ることができれば、人とのより深いコミュニケーションが可能なロボットを作ることができるとお話された。


セグウェイとは


 次に、大塚氏はセグウェイについて説明された。セグウェイは、シンプルな構造、バランスを保つ原理を持つ。一回の充電で何十キロも走ることのできるリチウム電池を搭載し、エコな乗り物である。すばやい停止、回転が可能であること、そしてセグウェイに乗りながら人とコミュニケーションがとれることが魅力であるという。日本ではセグウェイの公道走行は認められていないが、走行を認めている国も世界では多くある。サンフランシスコの町を歩くと、セグウェイを乗った人に出会えるという。 


 それだけではなく、アメリカでは様々な分野でセグウェイが利用されている。第一に、警備分野である。9.11の同時多発テロ後に警察官の人数が減少した際、その補完策としてパトロール業務にセグウェイが採用された。セグウェイを利用すれば少ない体力消費でパトロールをすることができる上に、ガソリンを使う事がないため経済的である。事実、セグウェイ導入後には軽犯罪が減少したという。第二に、観光分野での活用である。アメリカではセグウェイツアーがあり様々な所で乗れるのに対し、日本ではある特定の地域しか乗れないという。しかし、ゴルフ分野では、日本も採用し始めているそうだ。セグウェイを利用することで、移動時間が短縮でき、より多くの客を呼び込むことが可能だ。このような効率化により収益が上がる上に、その話題性から集客効果も見込めるという。


日本でのセグウェイ利用の現状


 大塚氏は、現在日本の公道でセグウェイが走れないことに問題を感じていた。公道でのセグウェイ走行が認められていない国は、先進国の中で日本のみであるという。そこで氏は現在、セグウェイでの公道走行実現までのロードマップ(行程表)をつくり、そのための働きかけを行っている。ある自治体にセグウェイの公道走行特区を設置して公道走行の先例を作ることでその安全性を保証してから、他の自治体にもセグウェイの走行が可能な公道を拡げていこうとする戦略である。 


 そこでまず大塚氏は、観光用としてセグウェイを利用できる特区を作ろうとした。大塚氏は横浜出身であるため横浜での特区設置を目指したが、実現には至らなかった。横浜での特区設置は未だ実現していないものの、つくば市でのモビリティロボット特区は実現したという。また、ある都市部での特区設置の動きも進んでいる最中であるという。この計画が実現すれば都市部の公道でのセグウェイ初走行であると氏は意気込みを見せた。


様々なセグウェイの形


 続いて大塚氏はセグウェイの様々な種類について写真や映像を交えながら説明して下さった。4輪で遊ぶことのできるセグウェイや着衣型セグウェイ、車いす型セグウェイ、チェグウェイなど様々な形のセグウェイがあるという。

未来のロボット


 最後に、未来のロボットについてお話された。現在の交通の問題点として、石油が枯渇しつつあること、そして交通事故が多発していることが挙げられる。また、都市部での自動車の平均時速は毎時18キロ。この現状を考慮すると、速さを追及する自動車はもはや必要ないのではないかと大塚氏は指摘された。そのためこれからの時代の交通機関に求められるのは、電動化、相互高姿勢、車両デザインの3つであるという。 


 また、今後自動車は小型化することが予想される一方で、セグウェイは大型化することが予想されるという。なぜならばセグウェイはモジュール化しているため、スピーディーに大型化することができるからだ。ただし車産業はその製造のピラミッド構造の中で、ヒトモノカネが絡み付き、小型化が遅れる可能性があることも指摘された。小型化する車と大型化するセグウェイ、未来はその二つが共存する社会になるという。また、今後はスマホアプリのようなヴァーチャルビジネスではなく、セグウェイのようなリアルビジネスに投資すべきであるということもお話された。 

 

 ロボットで人びとをワクワクさせたいというコンセプトから開発されたSegway+AD Robot、そして車間通信しながら自動走行するモビリティを開発するPUMA Projectなど、ロボットの可能性を感じさせる様々なプロジェクトが行われているそうだ。そして災害救助の際のロボットの活用可能性についてのムービーを紹介し大塚氏はこの講演を締めくくられた。


質疑応答


Q、農業分野でのロボットビジネス活用法はあるか?

A、若手農家や二代目農家が、ロボットを好む傾向がある。また、観光農園でのロボットを利用したビジネスチャンスも見込まれる。


Q、クリエイティブな人材となるために学生時代にやるべきことはあるか?

A、クリエイティブとはいっても、自然とアイデアが降ってくるわけではない。個人的な体験で言えば、小さい頃からの人間ウォッチングが役に立った。また、人間好きであったため、色んな人たちと出会っていた。このような積み重ねが現在の仕事に役立っていると感じる。


Q、日本のメーカーはどう変わるべきか?

A、日本は中国などの国に対してはコスト面で負けるし、十年後には技術水準も追いつかれているだろう。だからこそ、日本国内には研究所とコア技術のみを残し、それ以外の技術や生産拠点はすべて海外移転することが必要だ。国民性が勤勉で人件費が安いベトナムやミャンマーなどに工場を移転し、その利益の上澄みをとっていくビジネスがいいのではないか。


所感


 今回のご講演を聞いて一番印象に残ったのは、ものづくりにおいては作り手が「面白い」と思わないと意味がない、という大塚氏の言葉です。私達は何か行動を起こすときにどうしても「役に立つかどうか」を第一に考えがちです。確かに役に立つかどうかは重要な指標ですが、その考え方にとらわれてしまうことによって考えの幅が狭まってしまうというマイナス面もあります。グローバル化が進む昨今私達に必要なことは、既存の価値観にとらわれず広い視野を持って新しいものを作り出すクリエイティブさではないかと感じました。


今回ご講演いただきました大塚寛様、ありがとうございました。


文責:友澤達也