2013年度 第11回勉強会

人口減少社会 ―多文化パワーで日本を元気に―

毛受敏浩氏(日本国際交流センター執行理事)


 2月5日、オリンピックセンターにて「日本が今後安定して成長していける社会」を理想に、日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩氏をお招きし、勉強会を行いました。


人口減少時代の地域社会の将来像


 現在進行している少子高齢化・日本の将来への不安は閉塞感(将来を悲観し、未来へのチャレンジをする意欲が減退している状態)を生んでいるという。外国人を受け入れたくないという拒否意識も閉塞感の一つであると毛受氏はおっしゃった。また、以下のようなデータを用い、人口減少は加速するというお話もして下さった。

 

2013年 毎年30万人程度

2020年 毎年60万人程度

2050年 毎年130万人程度

 

 このような現状で、日本は持続可能な社会たりえるか、人口減少社会といいつつ、例えて言えば、まだ今は人口減少のジェットコースターに乗ったにすぎない。加速して落下するところまできてしまったら一体どうなってしまうのか、という疑問も提示された。 


 高齢化による通勤や通学の使用者の減少を原因として毎年400校が日本から消えており、バス路線は毎年2000キロずつ減っていること、また2035年の市町村は全国の自治体の5分の1以上が人口5千人未満になり、統合が必須になるであろうことにも言及された。特に北海道は人口5千人未満の自治体は半数以上になるという予想があるにもかかわらず、政府は対策をうっていない現状であるという。  


 毛受氏は、「ふたこぶラクダの罠」という人口増減の現象についてもお話しくださった。日本の最近50年程の人口増減を表したグラフにおいて、1つ目のコブは戦後のベビーブームであり、優生保護法を原因として3年で人口増は終わりを告げたという。2つ目のコブは所謂団塊ジュニア世代である。2つのコブが過去50年の人口グラフには存在するが、3つ目のコブは生まれなかった。現在の人たちが相当努力して子どもを生んでも、せいぜい人口3割増程度しか見込めないそうだ。   


 毛受氏は女性と高齢者の活用にも言及された。女性の活用については、M字カーブを取り上げられた。M字カーブの是正は2012年時点で既に70%達成されているそうだ。M字カーブが100%是正されることはないため、せいぜい残り20%程の是正しか見込めない状況では、女性の活用は人口減少社会における労働力不足という問題の解決にとって焼け石に水ほどの効果しか見込めないのではないのかというお話だった。高齢者の活用については、世界的に見ても日本の高齢者は就業を続ける割合が高く、現在の日本の高齢者活用率は決して悪くないという。そのため、女性の活用の場合と同じく大幅な是正が見込めず、労働力不足問題の解決のための有効な策とはならないとのことだった。  

 

 以上のような点から、女性と高齢者の活用は既に達成されており、人口減少社会における問題解決への効果は薄いのではないかと毛受氏はおっしゃった。このような現状においても、政府の女性への期待はあついという。子供を沢山産み、社会に出て働いて、自宅で高齢者の面倒を見てほしいと政府は要求するが、現実可能性は低いと毛受氏はおっしゃった。


多文化共生施策


 毛受氏は、次に外国人受け入れについて述べられた。日本では外国人受け入れに関して、高度人材の受け入れには積極的だが一般労働者に関しては消極的な意識が根強い。その原因として犯罪が増える、若者の職を奪うのではないかという危機感などがあるという。 


 しかし、現実はこのような固定観念とは異なるという。まず、日本に来ている外国人は増加傾向にあるにも関わらず、外国人犯罪者件数は年々減っている。また、高度人材として受け入れた外国人に限らず、高度人材として受け入れられたわけではない一般の移民、そしてその2世や3世も優秀な人材たりうるのだそうだ。その例として、毛受氏は子どもたちが現在の科学技術をもとに20年後に実現可能な技術を予想する、2012年東芝ExploraVision全米青少年科学対大賞受賞者の多くが移民の子供である事実を挙げられた。毛受氏はそのような人材がイノベーションを起こしていくことが国の発展につながるともおっしゃった。 


 次に、毛受氏は日本に存在する「土人間」と「風人間」についてお話しなさった。土人間とは土着の人を指し、風人間とは、土着のものとは異なる文化を持った移民などの人を指す。土人間だけが生活していると地域は安定するが、その文化的背景の単一性により次第に衰退に向かってしまうため、風人間と交わることにより、葛藤や障害の中で新しい共存の知恵やイノベーションを生み出していくべきであるという。ヨーロッパの移民導入については、まず移民受け入れの以下の4つの方法について説明された。


1無政策

2ゲストワーカー:短期的な受け入れを指す。日本は現在この状態である。

3同化主義:定着した移民を自国民に同化教育する。

4多文化主義:一方的な同化ではなく、移民の持っている文化を尊重する。

Parallel societyという、移民が新たに自国の中でコミュニティを形成するという現象が起こりうる。

5インターカルチュラリズム:win-winの関係を目指す。 


 ヨーロッパの受け入れの特色としては主国と旧宗主国という複雑な関係、EU内での移民の増加、モスリムとキリスト教の対立、移民の人口が極めて多いことが挙げられる。中には、人口の半数以上が移民の都市もあるという。韓国は2018年に人口のピークを迎える予測であり、移民政策は既に導入済だという。田舎では夫婦の3割が国際結婚であり、草の根国際交流の歴史が短いにも関わらず前へ進めるチャレンジ精神のある国だとおっしゃった。ここで日本を見てみると、現在、日本における在住外国人は2008年をピークとして減少している。総人口の1.7%(205万人)という数字は、世界で150位であるという。 


 このようなお話を踏まえて、毛受氏は多文化共生政策という考えについてお話しくださった。多文化共生とは「国籍や民族などの異なる人々が互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」であり、その政策としてはコミュニケーション支援、生活支援、多文化共生の地域づくり等があるという。


多文化パワー


 現在必要なのは「増える外国人への対応」から「外国人歓迎!」への多文化共生の理念の転換であるという。そして、外国人が潜在能力を発揮することで周囲の日本人を刺激し、両者間でwin-winの関係が構築される「多文化パワー」という考えを毛受氏は説明された。


 「多文化パワー政策」とは


1地域社会の課題の正しい認識と行動

2外国人への偏見の除去

3外国人住民への正しい認識


であるという。移民は優秀、高学歴、かつ海外へ行くガッツもある存在であり、現実を正しく認識することが大切であるそうだ。 


 人口減少は持続社会の妨げであり、移民を受け入れるか否かではなく、どう受け入れるべきか、の議論に変化する時期が来ている。すでに日本の社会は外国人によって色々なものが支えられているということが周知されておらず、ネガティブなイメージが先行し、その可能性について議論されていないのが問題であると毛受氏はおっしゃった。 


 外国人の日本での貢献の例として、


1人口増加により地元の商店、交通機関、税金、学校などが維持できること

2ハングリー精神、企業への意欲的な個人の活動

3新しいライフスタイル、価値観

4コミュニティを支える

活動例:神奈川県イチョウ団地のNPO「多文化まちづくり工房」トライエンジェルズ 


 毛受氏はこのような活動が知られていない現状を打破するために、外国人と交流している日本人ほど外国人への偏見が少ないという調査結果を踏まえ、外国人の方との交流の機会を増やすことが必要ではないかということも述べられた。 


 最後に毛受氏は、現在の移民に関する施策として、国家戦略特区で行われる予定のアジア青年移民受け入れ事業について説明された。日本は高度人材の受け入れのみを行っているが、日本以外にも高度人材を積極的に受け入れている国は多く存在するため、日本に来る高度人材の数は限られる。また、日本の農業者の平均人口は67歳で、若者は3K(きつい、きたない、きけん)の仕事とも言われる農業の仕事にはつかない傾向がある。このような現状を踏まえ、このプロジェクトは年間3~5名のフィリピン人青年を定住を前提に受け入れ、受け入れられた青年達が北海道滝川市でりんご、米の生産の活動を行う事業であるという。このような新しい動きを紹介され、毛受氏は勉強会を終えられた。


所感


 移民というと日本ではネガティブなイメージがつきまといがちですが、今回の勉強会は、私の今までの移民へのイメージを少し改善するものでした。しかし毛受氏との勉強会を踏まえた上で後日行われたディスカッションでも移民受け入れの是非については意見が割れるなど、人によって考え方が異なるようでした。移民については、外国人受け入れ、日本の現状などを正しく認識し、改めてじっくり考えるべき問題であると、今回の勉強会を終えて強く感じました。


 今回ご講演いただきました毛受敏浩様、ありがとうございました。


文責 鎌田明里