2012年度 第7回勉強会

安全保障と外交

長尾敬氏(元衆議院議員)


 11月30日、元衆議院議員である長尾敬氏をお迎えし、安全保障と外交についてお話しいただきました。


日本の領土、安全保障の事実


 戦後教育において、日本は小さな島国であると教えられてきた。しかし、本当にそうなのだろうか。国の広さは、陸だけではなく、海も含める。日本の国土は世界第61位である。しかし、その領海を含めると世界第6位へと順位は跳ね上がる。さらに、体積を含めると、ロシアを抜いて世界第4位の、大海洋国家である。この事実は、義務教育では教えられていない。板門店においては、国境線が目に見え、国民は、その線から一歩踏み出せば、軍隊の攻撃をうけるという危機感をもっている。一方、我が国は海の上が国境線であるため、自国の国境線をみたことのある人がいない。こういった点から、日本において領土を守ろう、国境を守ろうという意識を持つ人は少ないのではないだろうか、と長尾氏は言う。


尖閣諸島の現状


 日本の6852の島のうち、人が住んでいない島は、6415もある。つまり、大半の島において、実効支配がなされていない。いくら島の管理権を主張していても、無人島に外から人が移り住み他国に実行支配されては意味がないのである。  


 終戦直前に、台湾にむかう疎開船が尖閣諸島付近で爆撃されるという事件があり、ご遺族の方々は、これまで、慰霊碑のある尖閣諸島の魚釣島で慰霊祭を行っていた。  


 しかし今年から政府が管理するようになり、申請に対して許可が下りなかった。上陸を不許可とする政府からの回答書のなかに、「尖閣諸島は我が国が友好に活用している。」「平穏かつ安定的な維持管理をしている。」という文があった。しかし、尖閣諸島に向かった氏の目に映ったのは、廃墟となった島々であった。船溜まりや難破した船、石垣、…それまで人が住んでいた痕跡がそのままの状態で放置されていたのである。


領土を守るために、国としてあるべき姿とは


 新聞において、氏は東京都が尖閣諸島を領有すべきだと主張した。なぜなら、現段階において、国は島を適切に維持管理しているとはいえないからである。一方、都は島の環境保全に意欲的な姿勢を示していた。    


 また、尖閣諸島を守るための方法にも、問題があると氏は主張する。海上保安庁は9月24日まで、島に不審者が上陸した場合、取り締まることはできなかった。なぜなら、海上保安庁は「海の警察官」であり、陸地である島は、警察の管轄となるために手出しができないとされていたからだ。また、海上保安庁は、不審船に対して質問することすら認められていなかった。不審船に対して強制退去命令を出すためには、乗船して立ち入り検査をしなければいけなかったという。そこで、氏は海上保安庁法の改正にむけ行動され、丸2年間の尽力の末に、ついに改正を実現することができた。


中国の領土における安全保障


 中国は、1980年代に、第一列島線(*1)まで自国の領海を拡大するという計画を立てている。2010年までには、第二列島線(*2)まで拡大するという。その裏には、近隣諸国への威嚇効果が見込まれているという。現在、石垣島と宮古島付近には中国の原子力潜水艦が行き来している。第二列島線まで進出すれば、潜水艦が保持しているミサイルをアメリカに打ち込むことができるのだ。もちろん、中国は戦争を起こそうという考えを持っているわけではないだろう。しかし、アメリカを攻撃可能な状態にあるということは、侵略に対して、十分な抑止力となりうる。こうして、自国の防衛を着々と進めているのである。


私たち学生が出来ること


 最後に、氏は領土問題について、我々学生ができることとは何か、お話しくださった。  氏の専門は社会保障であるが、順序をあえて付けるならば、安全保障があってはじめて社会保障が成り立つのだという。例を挙げると、どんなにすばらしい船で世界一周の旅をして、素晴らしいサービスを受けたとしても、船が沈んでは意味がないのと同じである。    


 全員が、これらの事実をまず知ってほしい。そして、近くにある議員事務所に行き、生活における様々な質問を議員にぶつけてほしい。議員を突き上げて厳しく監視をしてほしい。これこそ、みなさんに明日からでもできることである。  


 衆議院解散当日というお忙しい中、時間を割いてお越し、お話しくださいました長尾敬様に心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。


文責:中山遥


*1第一列島線…中国海軍1980年代半ばに提唱した「近海積極防衛戦略」において近海と海洋を隔てる目標とされた、九州・沖縄から台湾・フィリピン・インドネシアの諸島群などを結ぶ線。

*2第二列島線…伊豆・小笠原諸島からグアム・サイパンを含むマリアナ諸島群などを結ぶ線。