2012年度 第5回勉強会

民間の視点から見た「アフリカへの国際協力」

宮路正毅氏(JICA客員専門員)


 11月5日、元三菱商事常務執行役員で現JICA客員専門員である宮路正毅様をお招きし、アフリカへの日本の国際協力の現状と今後のあり方について、ご講義いただきました。


国際協力のあり方


 従来のODAのあり方はとくにアフリカに対して、「人間の安全保障」をコアとする援助が中心であった。これはすなわち、人間の生存、生活、尊厳に対する脅威を防ぐ前提である、インフラ整備や治安維持などへの援助を意味する。しかし現在のアフリカは年5〜6%の経済成長を続けており、その関心事はむしろ持続的な経済発展にあるので、ODAのあり方も「経済発展」をコアにした援助にシフトしていくべきである。そのためには、官民連携による投資、つまり民間プロジェクトとリンクさせたODAを活性化していく必要がある。


日本の立場からのODA


 事実上自国の軍隊を持たない日本にとって、国際的な影響力を期待できる唯一の外交手段は国際協力であると氏は言う。例えば3・11の際に、あれほど世界中(貧困国含む)から援助の手が差し伸べられたのも、日本が戦後、国際社会でなしてきたことに対する見返りである。国際協力は単なるボランティアではなく、つぎ込むものに相応な結果を求めて、戦略的に実行し続けなければならない外交手段の一端なのだ。


アフリカについて


 アフリカの自律を担う機構としては、NEPAD、AU(African Union)が挙げられる。その目的は、NEPADにおいてはアフリカ自身の責任による経済的自立、AUにおいてはアフリカ人自身の手による政治的・経済的統合であり、それぞれにおいてアフリカ統合の追い風となる取り組みがなされている。また日本は1993年からアフリカ開発推進を目的とした国際会議であるTICADを国連や世界銀行などと共催し、アフリカがかつての被害者意識から脱し自己責任によるOwnershipという概念を獲得していく動きに貢献している。


MOZALプロジェクト


 氏が三菱商社時代に実際に手がけた、アフリカでの民間プロジェクトがある。モザンビーク共和国マプトにて2000年6月から始まったアルミニウム地金精錬製造会社のMOZAL社である。 これは日本の三菱商事をはじめとする多国籍の民間部門がプロジェクトの進行を担い、プロジェクトファイナンス(*)を導入することで十分な資金力を得て、民間主導による資金循環の型を実現させたものである。わずかながらでもモザンビーク政府からも出資させることで、National Projectとしての性格を持たせることに成功した。


 特筆すべきはMOZAL社の従業員の約95%がモザンビーク人であったり、周辺企業も含めて約1万人の雇用を創出したり、CSR活動を積極的に行ったりすることで、海外資本の民間主導のプロジェクトでありながら現地にその経済効果をきちんと還元しているということだ。MOZAL社はモザンビークのGDPが1996年から2009年の間に3.5倍になったことにも貢献しており、「経済発展」をコアにした援助の選択肢の一つとして民間主導のプロジェクトの有用性を示す例であるといえよう。このような民間プロジェクトの支援にODAを積極的に活用することで、ODAの効果はもっと大きなものになるだろうと氏は言う。


アフリカでの投資プロジェクト形成の方針


 最後に氏は、今後アフリカで民間主導のプロジェクトを行っていくうえでのヒントを提言して下さった。まずアフリカの国家は、自国の経済発展(私益)を第一に考え、そのために自国の強みをよく見極め、プロジェクトが実現されやすい環境を整えることが必要である。次に民間企業は、プロジェクトの計算上の実現可能性(Feasible Study)から判断するのではなく、実現可能性を高めるためには何をすべきかを問う姿勢や、生産コスト低減のためにODAの利用を交渉したり現地の制度改革を働きかけたりする姿勢が必要である。そして日本政府は、政府自らが融資だけでなく投資をしたり、民間プロジェクトを積極的に支援したりするなどより高い効果をあげるためにもっとリスクをとってODAを利用する姿勢が必要である。


所感


 アフリカが求める持続的な経済成長と、より効果ある国際協力のいずれの目的にもかなう方法論が、利益追求集団であるはずの民間企業主導のプロジェクトであるという宮司氏のお話は、ボランティア精神による「人間の安全保障」をコアとする援助という従来の途上国支援のイメージを一新する刺激的なものであった。他国との外交関係ありきの日本に暮らす私たちにとって、他国の求めることに、国益を追求する戦略性を持った上で柔軟に対応していくことは何よりも大切な姿勢なのかもしれない。


 ご多忙の中、ご自身が実際にアフリカで長きにわたり民間の第一線で活躍されたからこその説得力ある貴重なお話をして下さった宮司正毅様に感謝申し上げます。  


 ご講義ありがとうございました。


文責:天城拓人


*…事業の将来の予想収益を基礎に資金の借り入れができるシステム。