5月18日、FASID理事長である杉下恒夫氏をお招きし、日本の国際貢献の在り方についてご講義いただきました。
杉下氏は、「開発援助人材の育成を主たる目的として、平成2年(1990年)に経済団体連合会(当時)の積極的な協力の下に設立された外務省及び文部科学省両省の共管の財団法人」(FASID公式HPより)である国際開発高等教育機構において理事長を務めていらっしゃる。
氏は、社会の底辺にいる人々に自分ができることはないかと考え、慶応義塾大学を卒業後、読売新聞に入った。ある時、仕事でアフリカの難民キャンプに行くことになり、そこで目にした光景に衝撃を受けたという。
毎日目の前で亡くなっていく何人もの子供たち、子供たちの死体を黙々と運ぶ国際NGO「国境なき医師団」(MSF)の看護師、空腹のライオンがうろつく危険な場所で、子供の死体を抱えて涙を流す母親…日本では考えることができない非日常が日常となっているアフリカの現状が、瞳に焼き付けられた。
ジャーナリストである自分が、苦しんでいるこの人たちにできること――――それは、日本が豊かな先進国となっている今、途上国で起きていることを日本の人に伝えることだと考えついた。
仕事で海外に出かけることが多いが、どんな国にも非常に優秀な人材はいる。しかし、教育を受ける機会が少ないため、持てる能力が十分に引き出されていない人が多い。帰国後に氏は所属部署を社会部から国際部へと移し、ジャーナリストとして活躍される一方で、国際貢献人材育成に力を注がれた。
ご講義にあたり、杉下氏は国際貢献とODAの枠組みについて説明してくださった。マクロ的な視点で国際協力の枠組みをとらえる際に、クールな部分が出てくることを理解しなくてはならない、と氏は指摘した。
ODAをはじめとした国家が行う国際協力は国民の税金を用いて行われる。ここにおける国際協力とは国益、つまり国民の利益に基づいて行われるべきである。単なるチャリティーではなく、国民にとって有益で、同時に相手国の人にも役に立つことを第一の目標として為されなければならない。経済大国である日本に見合った支援の方法を選ぶ必要がある。日本と並んで平和な国家であるとされるカナダだが、国際貢献のために若者を危険な紛争地域に送り込むことで多くの犠牲者が出ている。たしかにそういった貢献の方法が、求められる型の一種としてあるのは事実かもしれない。しかし、日本はカナダのあとを追う必要はない。
自衛隊の国際協力活動を否定するわけではないが、日本の国際貢献策は政府開発援助(ODA)を主体とすべきである。武力よりも学校や病院を建てて貧困や病苦を削減する国際協力の手段を取るべきだ、と氏は強調された。
杉下氏は、国際社会で活躍する人材になるための心構えや、将来の仕事に求めるべきことについてもお話しくださった。ODA、NGOなどによる国際支援、それと比較されるPKOをはじめとする自衛隊による支援、日本国憲法第9条と自衛隊の微妙な位置づけ…国際協力の真の目的とは何であるのか、今一度検討するべきではないだろうか。今回伺ったお話を糧とし、それぞれが考えを明確にして将来につなげていければと思う。
ご講義くださいました杉下恒夫様、本当にありがとうございました。
文責:中山遥