2月12日、オリンピックセンターにて井尻千男氏をお招きし、道州制の是非についてご講義いただきました。
井尻氏は講義を聴くにあたって、形だけではなく地理的条件を含む日本列島を常にイメージして欲しいと述べた。講演の中で井尻氏は、これからの行政区分については、どうあれば国民のためになるのか、また共同体というものについて重視して考えることが大事であるとし、他国の共同体の意識について以下の例を挙げた。
歴史的に見て、人種のるつぼであるアメリカに対して、城郭都市の歴史を築いてきたヨーロッパでは共同体を重視する傾向がある。道州制をとっている国としてスイスでは、異民族が大量に入ってきたため国内に4つの言語が存在し道州制にする他なかったという過去がある。しかし、永世中立国でありなおかつ徹底的な自主防衛国であるため現在も結束している。
上記のような例を挙げた上で、では日本ではどうあるべきなのであろうかと、井尻氏は以下のことを述べた。
日本は一つの民族が共通の歴史を生きてきた“僥倖の国”(=恵まれた条件を受けている国、と井尻氏は述べる)かつ完成度の高い国である。現在もこれまでの歴史をみても一つの民族、一つの言語しか存在したことがない我が国が道州制にする理由は見当たらない。道州制については、歴史的に施行する理由があるか否かで議論すべきであり、効率性などで政治を考えてはいけないと井尻氏は述べた。そもそも広域行政にした場合、州都から離れた住民が州都の役所に通うことを考えれば効率的であると一概にも言えず、まず住んでいる人々の便得を考えるべきである。
また道州制について、我が国特有のデリケートかつ豊かな自然条件なしには考えてはならない。アメリカのような大陸国家かつ人口密度も0に近い国は道州制にする他ないが、日本の歴史的な都道府県制は複雑な自然条件を考慮して行政区分したものである。現在の境界線は大宝律令の頃に施行された郡県制からあまり動いていないものであり、これは現在に至るまでほとんど動かす必要のない完成度の高い境界線を築いたという日本史の素晴らしさを表している。
地域的な歴史や文化が現在も守られているのは自然条件も大きく、自然条件を踏まえた現在の境界線は動かす必要はない。
中央集権は地方との格差を是正すると井尻氏は述べた。中央集権により富の再分配で国民に平等感を与えることが必要であり、道州制を施行して税収の高い地域だけが幸せになっても、他の国民には不公平感を与えてしまうことになるため、富の平等化をはかるには中央集権国家が一番適している。そして、日本の官僚は、武士の歴史からみても真面目であり、世界に自慢できるため、なおさら中央集権国家が適しているという。日本の風土条件と、これまで一度も統一国家から外れたことがなく、日本語が通じない地域が形成されたこともないという歴史を踏まえたうえで、これまで日本の歴史に登場しなかった道州制をなぜ施行する必要があるのか考えなければならない。
昔からの日本の風土にさかのぼった考えは、今の私たちは全く考えていなかったため衝撃を受けました。また、とても熱い講義で聞いている私たちも思わず熱くなりました。ご講演いただきました井尻千男様、本当にありがとうございました。
文責:山里晴香