2011年度 第10回勉強会

原子炉の安全性、その行く先

中村秀夫氏(原子力安全研究ユニット長・研究主席)


 2月8日、日本原子力研究開発機構の安全研究センターで活動していらっしゃる中村秀夫さんをお招きし、原子炉の安全性についてお話していただきました。


原子炉安全確保の現状


 原子力機構では、1979年に発生したTMI-2号機事故以前から、昨年3月に起きた福島第一原子力発電所の事故まで、原子力事故に関する原因究明や調査に必要となる研究を実施しているという。原子力発電所の安全を保証するための指針が整備される、立地、設計、安全評価、線量目標、建設、運転など様々な側面を考慮した研究支援を行っている。

 

 原子炉の安全確保は、事故が起こる前、そして起こった後と大きく分けて2つの方向から考察されている。事故が起こる前の安全への配慮として、異常の発生を防止するために誤操作や誤動作を防止する原子炉の設計が行われている。また、万が一事故が起こった後の安全への配慮として、異常を早く発見でき、原子炉を緊急に停止して炉心を冷却し続けることができる設計の採用や、放射性物質の放出防止機能の装備、また、シビアアクシデントの発生防止と影響緩和の対策などが実施されているという。

 

 シビアアクシデントとは、原子炉の設計上考えられている設備や操作によって炉心の冷却や制御ができなくなり、炉心の重大な損傷に至る事象である。シビアアクシデント対策として、アクシデントマネジメントの整備が行われている。これは、当初の安全設計や対策によって十分低くなっているリスクをさらに低減するための措置である。


 アメリカにおいては内的事象、つまり施設において発生する事故だけではなく、今回のような津波やテロをも含む外的事象についても対策が考えられていた。我が国においても自然災害を中心に外的事象は考慮されていたが、必ずしも十分ではなかった。福島第一原子力発電所の事故は、津波という外的事象を発端として発生したが、その影響を適切に想定して対策していれば、今回のような事態はさけることができたのではないか、と中村氏は指摘された。

 

福島第一原子力発電事故から見えた課題


 昨年起きた福島第一原子力発電所の事故を受けて、アクシデントマネジメントについて見直しがなされている。福島第一原発におけるアクシデントマネジメント策の基本的内容は、1992年の原子力安全委員会の決定に対応して実施されたものであるが、見直しは十分にはされていなかった。このような安全確保のための方策は、防護のための技術の発展や安全評価の方法の進歩によって変化するものであり、継続的な改善がなされるべきである。また、原子力発電に関係するすべての組織や個人が、原子力発電所の安全に最大限の配慮をし、それを態度で示していく気風、組織文化である安全文化の醸成が必要であると中村氏は続けられた。


 福島の原発事故から日本の電力エネルギー源の転換を叫ぶ声が多い中、原発と聞いただけで危険だと反射的に判断する人もいるだろう。しかし、私たちに必要とされていることは、エネルギーの長所・短所をきちんと理解したうえで、それぞれの最適なバランスを考えることではないだろうか。


 ご講義くださいました中村秀夫様、本当にありがとうございました。