10月21日、日吉キャンパスにて第5回事前学習が行われました。これから三週間かけて学ぶテーマは「移民政策と多文化共生」です。今回は今西と齋藤によるファシリテーション形式で、本テーマについて日本の現状と今後の展望を考察しました。以下はその内容です。
現在、日本の人口は減少傾向にあります。また、合計特殊出生率は年々減少傾向にあり、生産年齢人口は2010年から2030年までの間に1,300万人、2050年には3,100万人減少することが予想されています。少子高齢化社会の日本において、人口減少が加速すると労働人口の減少や経済の縮小を招き、国民の豊かさが損なわれてしまう恐れがあります。
これを踏まえた上で、人口減少解消の方策をグループで話し合いました。主な方策として、子育て支援による出生率の向上を図り長期的に人口増加に努めるという意見が挙げられました。しかし、この方策では即効性が無く、人口減少の速度に追いつかないという現状があります。短期的に人口を増やす方策として移民が考えられますが、そのためには、多文化共生が可能となる社会の実現には何が大切かを考える必要があります。
人口減少解消の方策の一つである移民の受け入れについて考える前に、移民の定義を確認しました。難民は、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指します。一方、移民は、よりよい仕事・教育や家族との同居を求め、国境を越えて移動する人々を指します。
その後、多文化共生とは何か、多文化共生が達成された社会とは具体的にどのような社会かについて、意見を交換し合いました。文化とは、宗教や思想、言語、食べ物、生活様式などを指しますが、共生とはそれらの違いを認めることなのか、違いを理解することなのかで意見が分かれました。最終的に、多文化共生社会を「宗教・食物・生活・態度など、すべての文化に対しお互いが文化摩擦を乗り越え、理解と協調がなされている社会」と定義付けました。つまり、文化の違いがあることを理解し、その上で協調が図られる社会を理想とします。
その後、移民を受け入れることのメリット・デメリットについて、議論しました。移民を導入することで、日本で不足している分野の人材を獲得でき、低い賃金で雇うことができるため、国際競争力を維持できる。移民がもたらす異文化によって、新たな産業やサービスが起こるという国単位でのメリットや、異文化交流が活発になるといった個人単位のメリットが挙げられました。
一方、将来、国の人口(人種)構成が大きく変わる、賃金低下により日本人の失業者が増える、移民の労働環境の劣悪さが問題になる、文化衝突の可能性があるというデメリットも挙げられました。
以上の議論を踏まえた上で、日本で移民政策が導入されない理由について、さらに議論を深めました。人口減少に対する国民の危機感の薄さや移民を受け入れることに対する心理的弊害、治安の面での懸念の他、日本の福祉・教育制度等の整備が追いついていないという制度面での不安が、移民政策の導入に二の足を踏む原因であるといった意見が挙げられました。
最後に、移民政策の導入に必要な施策についてグループで意見を出し合いました。「言語の壁をなくすことが重要である。そのために、機械を導入するなどして言語能力向上に努める。」「日本で一定の生活を送れるように、渡航前に日本について一定の知識を得た者についてのみ移民を認める。」という意見が挙げられました。また、移民を受け入れる上で、移民に対してどの程度まで参政権を与えるべきなのか、ということについても議論がなされました。
移民政策を導入することで、人口減少を食い止めることが可能となるだけでなく、優秀な人材が日本に移り住むことで新たなイノベーションが起こり、経済規模の発展も見込めると言われています。このように、移民政策を導入することで恩恵がもたらされる可能性があるにも関わらず、日本人の多くは移民政策導入に対して少し抵抗感を抱いているように思います。移民政策に対してのマイナスのイメージはどこから来るものなのか。今、移民政策を考えることの重要性とは何なのか。そのようなことを今後、深く掘り下げて考えたいと思います。
今回の事前学習で学んだことをもとに、「勉強会」「リフレクション」を通じて、さらにこのテーマについて理解を深めていきます。次回は10月28日、公益財団法人日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩氏をお迎えして、ご講義いただきます。
文責:鍋田真結子