2015年度 第5回事前学習

再生可能エネルギーと持続可能社会


 10月2日、日吉キャンパスにて第4回テーマ事前学習が行われました。これから3週間かけて学習していくテーマは「再生可能エネルギーと持続可能社会」です。今回もサークル員の宮田と中井によるファシリテーション形式で、本テーマについて日本の現状と今後を展望しました。以下はその内容です。    

エネルギー基本計画


 エネルギー問題は昨今、火力発電によるCO2排出や反原発運動といった社会問題になっています。政府はエネルギー問題解決のために、2014年にエネルギー基本計画を発表しました。それは、これまでの脱原発路線の撤回と再生可能エネルギーの利用を公言するものでした。

エネルギーとは?


 従来型エネルギーとは、水力以外の火力や原子力などの埋蔵資源を燃料とするもののことです。そして、再生可能エネルギーとは、エネルギー源として永続的に利用できるもののことを称します。さらに加えて、1次エネルギーと2次エネルギーという概念もあります。前者は自然から再出されたままの物質を源としたエネルギーで、後者は1次エネルギーを発電、精製、乾溜などして利用しやすい状態へ変換、加工したもののことを指します。

 ここで、国内で消費される1次エネルギーの内訳に注目しました。すると2012年度では、化石エネルギーが全体の9割近くを占めていました。これは、東日本大震災以降、原子力発電が急速に減り、火力発電中心にシフトし、化石エネルギーの占める割合が増加していったことが原因に挙げられます。しかし、日本の化石エネルギーの自給率は極めて低く、原子力を除くエネルギーの95%近くを輸入に頼っています。

電力の重要性


 一次エネルギーにおいて電力へと変換された割合を示す電力化率は、日本では45%程度を示しています。さらに家庭の使用エネルギーの約50%は電気であり、都市ガス(21%)や灯油(18%)と比べ、倍以上の割合となっています。この背景には、急速な家電製品の普及があると考えられます。1950年代、三種の神器をはじめとした家電製品が普及していきました。高度経済成長期は新三種の神器。今では、デジタル三種の神器と呼ばれる、デジカメ・DVDプレーヤー・薄型テレビが広く浸透してきています。

 また、第一回テーマ「スマホ社会の光と影」で扱ったようなスマホをはじめとするIT機器も、昨今急速に普及しています。IT機器による国内の電力の消費量は、2006年に比べて、2025年では5.2倍になるとの見立てが建てられています(経済産業省/グリーンIT推進協議会試算)。以上のように、電気をエネルギー源とする機器は我々の生活にとって、もはや欠かせないものとなっており、今後も国内の電力需要は右肩上がりに推移していくであろうと推測できます。

火力発電と原子力発電

 現在国内の発電量の約8割が火力発電であり、それに対して、再生可能エネルギーは約11%とかなり少ない割合となっています。これは前述の通り、2010年には原子力発電に約29%を頼っていた状況の中で、震災の影響でほとんど原発の稼働が止まってしまったことが原因であると考えられます。そのため震災前は62%だった火力発電も、震災後は85%を占めるまでになっています。原発を停止したことによって、燃料の輸入が増え、電気料金の値上がりが起きる等の事態が起きています。

 

――火力発電――

発電方法:燃料燃やして水蒸気でタービン回して発電をします。

発電所数:全国に264か所存在します。

 

――原子力発電所―――

発電方法:核分裂させて熱を発生させ、水蒸気でタービンを回して発電します。

発電所数:全国に17か所存在し、今は九州電力の川内原発一基のみ稼働中です。

 

ここで火力発電と原子力発電の長短をサークル員でディスカッションしたところTable1のような意見があげられました。

 

 

Table1: 火力発電と原子力発電の長短

 

火力発電

原子力発電

長所

安全

安心

方法が単純

発電量の調整が容易

安い

発電効率がいい

CO2排出がない

原料がたくさんある

資源を使わずに済む

補助金などで地方が潤う

短所

環境に悪い

コストが高い

輸入に依存するためリスクが高い

CO2を出す

核廃棄処理が困難

事故リスクが高い

イメージが悪い

地元の同意が得にくい

設置に費用が掛かる

立地が限られている

再生可能エネルギーについて理解を深める


 再生可能エネルギーは今、世界的に新規投資額が増加していっています。その中で国の推進する五大再生可能エネルギーとして、太陽光、地熱、バイオマス、水力、風力が定められており、この五つに関しては固定買取価格制度が設けられています。

 

 ここからは各発電方法についてファシリテーターから簡単な解説があり、それぞれの方法についてサークル員に質問が投げかけられました。ここでは各発電方法の解説に加え、ディスカッションをQ&A形式でまとめさせていただきます。

 

 

――太陽光発電――

発電方法:光起電力効果を利用して、太陽光から直接エネルギーを得ています。太陽電池は素材や構造によって多彩なバリエーションを持っており、それらの差によって発電効率には大きく差が出てきます。

発電所数:国内に2400か所と火力に比べてたくさんありますが、一個の発電量が小さいため、総発電量に占める割合は少なくなっています。

備考:「メガソーラー」という 広大な敷地に大量のソーラーパネルを設置し発電量の向上を見込んでいます。

 

 

――風力発電――

発電方法:風によってプロペラが回り、タービンを回して発電します。再生可能エネルギーの中ではもっとも発電量が大きいです。

発電所数:国内401か所に設置されており、風の強い沿岸部に集中しています。

 

風力発電機は地上だけに立っているというイメージをサークル員の多くが持っていましたが、風力発電は海上にも設置されており、その発電量を近年伸ばしています。

 

Q1、なぜ海上での風力発電が伸びているのか

   ・沿岸部には大都市が多いので電力の輸送コストが安く済む

   ・海だったら土地を買わずに国の主導で設置できる

   ・海上のほうが風が強い

 

Q2、日本では浮体式洋上風力発電、着床式洋上風力発電、どちらのほうが多いか

  ・沿岸から遠くに設置されていると思う。(浮体式)

これは、実際には浮体式のほうが多く、その理由は日本の沿岸部はプレートによる沈み込みなどがあり水深が深いため着床式の発電機は設置することができないというものでした。

 

 

――水力発電――

発電方法:水が高いところから落ちる勢いを利用してタービンを回して発電します。

発電量:1950年あたりに約8割の発電量を占めていましたが、その後発電量が増えず、一方で電気需要は増加していったので、全発電量に占める割合は減少していきました。

 

Q3、水力発電はなぜ増加しなくなったのか

  ・土砂がたまり、能力が年々低下していってしまい、輸入していた材料が為替の影響で高額となり採算が合わなくなった。

 

 今の技術をもってしても山を切り開くのは大変です。そこで最近では中小水力発電という、その名の通り小さな水車を回して発電する方法も広まってきているようです。

 

 

――バイオマス発電――

発電方法:バイオ…生物由来の、マス…物質、という名の通り、木くずや燃えるゴミなどを燃焼させて水蒸気を作り、タービンを回して電気を得ます。

発電所数:全国509か所

 

Q4、発電方法は火力発電のそれと一緒であるのになぜ再生可能なのか

  ・不要物であるごみを燃やすから

  ・化石燃料と比べて木は早く成長する

 

 サークル員の述べたことに加えて、木は成長過程でCO2を吸収するため、総合的に見ればCO2の排出量はプラスマイナス0と見積もることができ、この「カーボン・ニュートラル」という考え方からバイオマスは再生可能エネルギーとされています。

 

 

――地熱発電――

発電方法:土の中にパイプを埋め、取り出し蒸気で直接タービンを回して発電します。

発電所数:全国29か所に存在し、それは日本の地温勾配分布(産業技術総合研究所)の高温地帯と一致します。

 

日本列島はホットプレート上に位置しており、地熱資源量は世界第三位と豊富です。

しかし、地熱発電所数は他の発電所数に比べてあまり多くはありません。

 

Q5、1998年あたりから設置数が増えていないのはなぜか

  ・導入コストが高い

  ・発電量が減っていっているから採算が合っていないのではないか

  

以上のように、地熱発電の出力と発電電力量の推移を分析した意見が上がりました。

 

このセクションのまとめとして、再生可能エネルギーの長短についてサークル員でディスカッションを行いました。あげられた長所短所をTable2にまとめます。

 


Table2: 再生可能エネルギーの長短

長所

短所

永続的に使える

環境にやさしい

太陽光は個人でできるので広めやすい

資源の取り合いがなくなるかもしれない

事故のリスクが小さい

設備投資のお金が大量にかかる

天候に影響を受け安定的供給ができない

地域によってはカバーできない恐れがある

発電の絶対量が少ない

 

 

理想とする社会


 今後目標とされるのは「持続可能な開発・発展」、つまり将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満たせるような開発・発展をつづけていくことです。

 

 持続可能性と発電効率のどちらを優先とするのかという問いについては「計画停電のように負担を分散すれば電力消費は抑えられるのでは」といった持続可能性を重んじる声と、「すぐに資源はなくならない。新しい技術を発展させれば、将来は明るいのでは」といった発電効率を維持すべきだという声の双方があがりました。自分の息子や孫が困ることと自分たちの世代が負担を負うことのどちらも避ける方法はないのでしょうか。

リフレクションに向けて

 そこで今回は「日本は従来型エネルギーから再生可能エネルギーへの移行を図るべきである」という意見の是非についてディベートを行います。

 発電効率を重視した従来型エネルギーと、環境や燃料問題に配慮した再生可能エネルギー、将来世代と現代世代の双方の欲求を満たすためにはどのようにすればよいのか。サークル員全員で考えます。

所感


 今回の事前学習ではエネルギー問題の中の、特に電力に焦点をあてて学習しました。私は、燃料を輸入に依存していることや、再生可能エネルギーの普及がまだ進んでいない等の漠然とした情報はすでに知っていました。しかし、一方で「再生可能型」「従来型」といった言葉の定義や、再生可能エネルギーのうちの風力、バイオマス、地熱等については知らないことが多くあり、現代に普及している発電方法について広く知見を深めることができました。

 私は今年帰省した際に、空き地が小規模なメガソーラーになっているところをいくつか見ました。再生可能エネルギーは着々と普及の足を速めているものと感じます、後の世代のためにも、電力を大切に使っていかなければならないと感じました。

 

文責:服部友俊