6月7日、日吉キャンパスにて、事前学習や特別学習企画を通じて考えを深めてきたテーマである、「変わりつつある介護社会~介護者になるとは~」についてリフレクションを行いました。
各班が、介護問題に関連するテーマを選択し、6分間のプレゼンテーションを行いました。以下、各班の提案の概要を記載します。
介護現場への介護ロボットの導入について、介護者・被介護者それぞれの立場から検討した。介護ロボットは介護者不足の解消、介護の質の向上などのメリットがある一方、導入費用の高さや現場と開発者間の齟齬などのデメリットもある。そのようなデメリットを解消するためには、ロボットと人との役割分担を決めることを目的とした、開発者と介護者の協議の場を設け、また平成27年に発表された介護ロボット等導入支援特別事業の強化などの政策を実行する必要があるといえる。
介護ロボットの定義は機関により様々であるが、今回小林班では肉体的・精神的に役立つ存在としてより広義的に定義することとした。また、導入に生じる費用面について今回は検討せず、あくまでも介護ロボットという存在自体がもたらす影響面にフォーカスした。まず、現状分析として、介護の世界における介護者・被介護者それぞれの立場から問題点を指摘した。そして、介護ロボット導入により起こりうるデメリット面をどのように克服するのかについて提示した上で、どのようなタイプの介護ロボットが、各々の現状の問題を解決するのかについて考察した。小林班では、介護業務の負担軽減や被介護者のQOL向上に役立つ介護ロボットの導入を適宜行うことで、人による介護の質も高まり、介護者・被介護者ともにプラスの影響をもたらすと暫定的に結論づけた。
被介護者が福祉サービスを利用している間、介護者が一時的に介護から解放され休息をとれるようにする支援のことをレスパイトケアという。浜本班では、このうちショートステイサービスを現在よりも充実させる方策を提案した。この方策により、すべての介護者がリフレッシュ休暇の獲得や旅行の優待などの支援を等しく受けることができる。ショートステイサービスはこれまで日本国内で効果をあげているが、現在よりもさらにサービスを充実させることで介護者の精神的・肉体的ストレスを軽減させ、介護者から被介護者への虐待を減らすことができる。そのために、現在イギリスやオーストラリアで制度化されているようなレスパイトケアを、行政主導で日本においても施行していくことを提案した。
介護施設従事者よりも介護者による虐待件数が格段に多く、また最も多い虐待原因が介護疲れ・ストレスであることから、谷本班では在宅介護者へのケアに焦点を当てた。谷本班では在宅介護者の心のケアの方法として、主に⑴介護疲れの直接的原因である介護の肉体的負担を、機械を利用して予算的に無理のない範囲で軽減すること、⑵介護者と被介護者との閉鎖的関係を打開するために、インターネットや公共スペースなどを利用して同じような境遇の人や専門家とかかわる機会を身近につくることを主張した。
昨今、日本の福祉政策の行き詰まりが露呈し早期解決が声高に叫ばれる中で、「北欧のような福祉先進国を手本とした改革をすべきだ」という意見が散見される。では、本当に日本は北欧を手本とした福祉先進国を目指すべきなのか。秋山班では、日本との比較のために北欧諸国の中でもスウェーデンをピックアップし、政府のサービス・制度・統計の面から現状分析を行った。そこで、日本とスウェーデンの制度・歴史・文化・人口などの差異から、日本では北欧のような福祉制度の実現は不可能であることを見い出し、日本は北欧を手本とした福祉先進国を目指すべきではないという結論を導き出した。
病床の不足と介護士不足から必要視される在宅介護。ストレス軽減に大きく貢献すると期待されているがその用途は限られており、介護士側のニーズに応えきれていない介護ロボット。このような現状のデメリットを打開しメリットをさらに活かすために、青栁班では既存のシステムを在宅介護向けに融合させた、新たな「自立型高性能ロボット」の開発を2023年までに首都圏郊外をターゲットに行うことを提案した。このロボットは、会話が可能であり、タッチパネルによる介護知識の提供、装着型の補助ロボットによる介護の援助促進、VRによる介護者/被介護者のストレス軽減を行うことが可能である。これにより前述した諸問題を一気に解決できる、というような結論を導き出した。
従来の介護現場では、医学的観点から認知症を捉え認知症患者に手を施すことを諦めていたが、トム・キッドウッドによって主張された「その人らしさ(personhood)」に主眼を置きつつ、社会的関係性から認知症を捉えてケアをするというパーソンセンタードケアの重要性が認識されるようになった。こうしたパラダイムシフトによって認知症に対する偏見が減り、認知症患者ないしは認知症になることを恐れる大多数の人々が生きやすい世の中になるといった様々な利点が生じると考えられる。また、幸福追求権や弱者の尊厳を守る国際的な潮流などのように、憲法や障害者という切り口などから捉え直してもパーソンセンタードケアには有効性があるといえる。それでもなお介護の人材不足という課題は残るが、e-learningによる介護研修を突破口として人材不足を解消出来れば、パーソンセンタードケアの考え方が幅広く普及し、より良い社会を作り出すことが可能になる。山田班は、以上のような「その人らしさ」に重きを置いた施策を提案した。
現在、大多数の要介護者は中間層・低所得者層であり、中間層・低所得者層への介護ビジネスの普及はより緊急性を高めているといえる。介護業界において、介護事業者数が要介護者と比べて相対的に不足しているといえるため、鎌田班では受け入れ規模の拡大について議論を展開した。事業者数の増加や中小の介護事業者同士のM&Aによる事業拡大が解決策として挙がるが、結局は介護士数の増加が必要となる。そこで、鎌田班は介護士の所得を引き上げる事こそが最も効果的な解決策だと考えた。理由としては、介護士の所得の増加によって、介護へのイメージアップが起こり、結果として介護士数が増加するということが挙げられた。そのためには介護サービスの財源の多くは税金で賄われているがゆえ、介護士の所得の増加のためには保険料の引き上げまたは増税が必至であるといえると主張した。
①的確な分析ができているか ②検討が分析との関連で論理的になされているか ③班ならではの観点から考察・検討できているか ④発表全体において整合性の取れたものになっているかという4つの評価基準から、各班のプレゼンテーションの評価が行われました。
今後の日本社会が向き合わなければならない介護問題について、事前学習では在宅介護の現状を、特別学習企画では介護ビジネスや倫理問題等の理解を深めましたが、それがプレゼンテーションに活かされていると思われる点が随所に見られました。今回、班によって選択したテーマは様々でしたが、ほぼすべての班に共通する点として、既存のものを改良するという提言が多かったように思われます。今回は、今年度はじめてのプレゼンテーションでしたが、各班の発表のレベルも高く有意義なリフレクションになったと思います。これを、今後の成長の糧としていきたいと思います。
文責:浜本 純平