6月8日、日吉キャンパスにて、第2回テーマである「社会保障の危機とベーシック・インカムの可能性」についてディベートを行いました。
現在の社会保障制度が本来の目的を達成できていないのではないか、という問題意識のもとで、その解決策の一つとしてベーシック・インカムという社会保障制度が各国で検討されています。肯定側、否定側ともに、社会保障の特徴、制度によって実現される「豊かさ」の定義が立論のポイントとなりました。議論では、財源の確保やそれに伴う副次的効果、対象者の範囲、ベーシック・インカムとその代替案の有用性が主な争点となりました。以下、肯定側・否定側においてあげられた論点を紹介します。また、否定側が挙げた代替案も掲載します。
・現行の公的扶助制度では、基準・審査があるために救済されていない人々が多数存在する。ベーシック・インカムであれば国民全員に対する給付であるため、その救済に不足は生じず、低所得者層が社会保障給付によって就労のインセンティブを阻害され貧困層に留まってしまう「貧困の罠」を解消することができる。
・現行社会保障制度では給付対象外の人々にも給付されるために、子育て環境や不当な労働環境の改善につながる。
・無条件かつ一律給付の特徴により、給付に当たっての行政事務が大幅に簡素化される。複雑な現行社会保障制度からの移行で削減した経済的・人的・時間的コストを国民に還元することができる。
・自由に使えるお金が増えるため職業選択の自由が拡大され、多様な働き方が実現する。
・生活保護受給にはスティグマ(恥辱感)が伴い、現在の受給者は権利者のうち3割ほどである。ベーシック・インカムを導入すれば、全員が受給者であるために受給への抵抗感が薄れ、受給者割合を増やすことが出来る。
・現行の社会保障や税制で実現可能である。
・生活保護が労働意欲を削ぐ。そのため、労働人口が減少し、増税による企業投資の減少により企業の生産力が低下することで、日本経済の衰退が懸念される。
・膨大な財源を確保するために政府は増税を余儀なくされるが、国民に負担を課すことになり、結果的に国民を豊かにできない。
・本論題の給付額は、現行の生活保護制度により給付される金額よりも低額である。そのため、現在生活保護制度により保護されている人々の生活が現状よりも苦しくなる。
・国民全員に一律支給をすると、社会的弱者の相対的生活水準は現行の社会保障制度のものより下がる。
・労働を行っているにもかかわらず最低限度の生活を行える所得に達しない人々を対象に、各種税の控除や社会保険料の減免、さらに就労関連活動の義務付けとそれにあわせた就労支援を行う、日本型ユニバーサル・クレジットを導入する。
・現行の税制度を見直し、累進課税を増やす。所得の高い人から多く、低い人からは少ない税負担を求めることで、財源に対するより効果的な問題解決策となる。
・英国で2013年から始まった低所得者向け給付制度「ユニバーサル・クレジット(UC
)」を参考にし、日本型UCを導入する。従来の社会保障制度の反省をふまえ、受給者の実態に応じた就労関連活動の義務付けとそれに合わせた就労支援を提供する。
今回のディベートやその準備を通して、日本の現行社会保障制度は根本を変更しないままその時々の妥協によって維持されてきており、現在その根本の見直しが必要とされているということが分かりました。また、社会保障制度に基準を設けることは、政府が人々の価値観を強制的に規定し「救う人間を選ぶ」ことにつながる危険性とともに、そもそもなぜ社会保障制度を必要とする世の中になっているのかについて考えるべきだと感じました。
文責 榎本達也