2016年度 第5回リフレクション

移民政策と多文化共生


11月11日、日吉キャンパスにて、「移民政策と多文化共生」というテーマのもと、ディベートを行いました。

論題「日本は毎年20万人の移民を受け入れるべきである」


 移民受け入れの背景には、日本における人口減少と少子高齢化問題が挙げられます。日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少を続け、内閣府の試算によると2050年には日本の総人口は1億人を割り込み、生産年齢人口の割合は45%まで減少するとされています。このような根本的な労働力不足に加え、一部の業種の労働力不足も深刻です。その解決策の一つに、移民政策の導入による人口増加が挙げられます。しかし、移民政策には移民の人権や保障体制、治安や文化摩擦といった面で多くの懸念があります。そこで、2014年に経済財政諮問会議に記載された毎年20万人の移民受け入れを例に、移民政策の実現可能性や効果について議論しました。

 

 以下、肯定側、否定側において挙げられた論点です。また、否定側が挙げた代替案も取り上げます。

肯定側


・人口減少により生産年齢人口や経済成長率が減少する。また、消費者が減ることで国内市場が縮小することが予想される。すなわち、生産年齢人口の減少により国益が損なわれる恐れがある。GDPを日本人の生産と消費だけで維持していくためには、一人当たりの消費の増加に加え、労働生産性の向上が必要となる。また、日本の借金は1050兆円(2016年11月現在)であり、経済成長は国家の財政維持のために必要不可欠である。経済規模を縮小させないため、かつ膨大な日本の国債を返済していくためにも移民受け入れによる人口維持、労働力の確保が必要である。

 

・移民の受け入れにより、人口の大幅な減少を防ぐことができる。生産年齢人口の減少により経済規模が縮小していくと予想されるが、毎年20万人の移民受け入れが合計特殊出生率の上昇に寄与し、人口維持をすることが可能となる。その結果、経済規模や国際競争力を維持することが可能となるだけでなく、税収や社会保険料が上昇し、社会保障制度の崩壊を防ぐことも可能となる。

 

・移民の受け入れにより、東京一極集中の防止が期待できる。人口減少とともに首都圏への人口の一極集中が進み、地方の過疎化が顕著になるとされている。しかし、移民政策を導入する際、移民の居住する地域を過疎が懸念されている地域に設定して受け入れを行うことで、過疎地域の人口減少と人口の東京一極集中を防ぐことが期待できる。

 

・今後20年間、移民受け入れに代替する少子化対策がない。現行の子育て支援策(育児休暇制度の整備、保育所の整備)が成功しても、即効性は期待できない。この政策により増加した人々が働くようになるには約20年かかるため、その間の生産年齢人口は減少した出生率の分だけ減少することに変わりはない。

 

・移民の受け入れの時期は、今が最適である。現在日本は比較的裕福な国であり、移民の受け入れを行うとすると、外国からの高度な人材の獲得も可能である。しかし、今後人口減少が加速し生産力が弱まると仮定すると、衰退の途中にある国に魅力を感じ定住を希望する人々が増加するとは考えにくい。高度な技術・能力を有する移民を登用することで、日本企業に新たなアイディアが提供され、イノベーションが起こることも期待できる。

否定側


・移民受け入れは、治安の悪化につながる。来日外国人犯罪の特徴は、その半数以上が不法残留者によるものであり、窃盗犯だけでなく覚せい剤密輸などの薬物犯も常態化している。また、こうした外国人による犯罪は組織化する傾向にある。実際に、日本国内の失業した不法滞在者等がより効率的な利益の獲得などを目的としてグループ化し、犯罪を引き起こした例もすでに存在している。移民による凶悪犯罪、薬物犯罪、組織犯罪が増加し治安の悪化することが見込まれる。

 

・移民を受け入れることで、少人数生産技術の停滞が予想される。現在、労働者不足が顕著な分野では、ロボットを活用することによって人手不足を補っている。この結果、日本は世界のロボット産業をリードしている。移民受け入れにより少人数生産技術へのインセンティブが低下することで、技術開発に遅れが生じ、産業開発に悪影響をもたらす。

 

・移民の受け入れは、日本人の海外流失を招く。移民大国であるドイツでは、1950年末から大量の移民を受け入れたが、1960年以降ドイツ人の流出も増加しており、近年再びドイツ人の海外流出増が問題視されている。これは産業の空洞化による自国への不安が背景にあるため、同様の問題をもつ日本においても、移民受け入れを契機に日本人が海外流出する可能性がある。

 

・移民の受け入れが、社会の分裂や差別を招く。移民受け入れ大国のアメリカは、人種別の住み分けによるエスニック集団間の摩擦に直面している。日本においては、ヘイトスピーチや選挙権の問題などの在日外国人にまつわる問題が多いが、これらは日本人のための日本のあり方が失われていくことの危機感を持つ人が一定数いることの現れといえる。また、日本に住んでいる外国人も、差別的であると感じる状況に直面していることが数々の調査から明らかになっている。

 

・移民の受け入れは、移民の社会保障や日本語教育に膨大な費用が必要となる。莫大な借金を抱える日本の財政状況の中で、移民受け入れにさらなる費用を投じるわけにいかない。

代替案


・移民の受け入れを議論する前に、女性・高齢者の力を最大限に引き出すべきである。総務省によると、日本の非労働力人口における就業希望者は428万(2013年平均)人に上り、女性がおよそ4分の3を占めている。また、定年退職後の世代の就業水準自体は他国に比べて高いものの、働く意欲の高さに応じた就業機会が十分に確保されているとは言い難い。日本人は高い教育水準にあり、かつ言葉や文化の壁もないことから、外国人を受け入れるよりもコストや摩擦が少なくて済むと考えられる。

 

・社会保障政策の充実を図るべきである。具体的には、保育所の増設など、仕事と家庭生活の両立支援を提案する。人口減少の背景にあるのは、女性の未婚化であり、その要因は女性が結婚することによる機会費用(注1)が高いことが挙げられる。 次に、児童家族関係給付費を、対GDP比で3%にまで引き上げることを提案する。日本の少子化に関連する家族関係社会支出は低い水準にある。投入額が不足しているために具体的な効果が表れていないという見方もできるため、支出量を増やすべきである。

 

(注1)機会費用は経済学の用語であり、あるものを得るために放棄したものの価値のことを指す。今回の場合、結婚・出産時に退職することで得られなくなる賃金のことである。

所感


 移民受け入れの問題を考える際、受け入れる側である日本人の視点だけではなく、実際に移民として移り住む外国人の視点の双方から考える必要があると思いました。

 

 日本の人口維持、国益という観点から考えると、移民政策は日本に大きな恩恵をもたらすと言えます。しかし、実際に外国人が日本に移住したいと思うのか、日本人も移民と共生していけるのか、となると話は別です。移民政策を導入する際、外国人が定住を求めて移り住みたいと思える環境が整っている必要がありますが、現段階において課題は山積みであると思います。

 

 日本において、日本国籍を有するハーフやクオーターといった混血の人の割合は年々増えています。しかし、日本には島国根性というものも未だに根強く存在し、混血の人々が日本で差別的な扱いを受けることも少なくないということを見聞きします。2015年のミスユニバースの日本代表にアフリカ系アメリカ人と日本人のハーフの宮本エリアナさんが選ばれたことに対するネット上での否定的な見解は、その一例であると思います。日本が移民政策を導入したとして、多文化共生は可能となるのか、双方にとって暮らしやすい国となるのか。移民受け入れについて考える際、引き続きこれらの問題について考えていく必要があると思います。

文責 鍋田真結子