2016年度 第3回リフレクション

開発と生物多様性


 6月24日、日吉キャンパスにて「開発と生物多様性」というテーマのもと、ディベートを行いました。

論題「次のディベートストーリーの中で、A県は工場建設計画を中止すべきか」


 今回は、第3回定例会のテーマ「開発と生物多様性」に関するディベートを行いました。開発と生物多様性の両立は地球全体における喫緊の課題であり、日本もその例外ではありません。第3回ディベートでは、ディベートストーリーを設定し、日本を舞台とした事例を想定した上でディベートに臨みました。以下に、ディベートストーリーを記載します。

 

「A県では総面積500haの自然林を開発し、新たな工場の建設を計画している。この工場が稼働することによって6000人の雇用と年間約200億円の経済波及効果が期待できると試算されている。しかし、この土地には固有種が生息しており、自然林の開発によって固有種の生息地破壊をはじめとする生態系破壊が懸念材料として挙げられている。ただし、工場稼働後の環境への影響はないものとする。」

 

以下、肯定側・否定側において挙げられた論点です。

肯定側


・自然がもたらす生態系サービスの喪失は、私たちの生活への大きな打撃となる。

※生態系サービス…自然が人間にもたらす様々な恩恵のこと。食材や加工材料を生産する供給サービス、知的な刺激や科学的発見をもたらす文化的サービスなど多岐にわたる。

 

・固有種を有する森林はエコツーリズムによって観光・教育目的での活用が見込める。

※エコツーリズム…自然環境や歴史文化といった地域固有の魅力を体験・学習型観光の形式で伝える活動のこと。

 

・人間は生態系の一部であり、その生態系を破壊することは倫理的に避けられるべきである。また、その再生には非常に長い時間と費用がかかり、不可能な場合もある。過去の事例としては、ニューファンドランド島のタラの乱獲などがある。

 

・生物多様性の保護は遺伝的多様性を維持することにつながり、私たちの生活を豊かにする。過去の事例としては、海底火山に生息する好熱菌から発見された耐熱性DNAポリメラーゼなどがある。

否定側


・A県にとっての経済的な利益が非常に大きい。とりわけ500haの面積に対して年間200億円という額は莫大なものである。対して生態系サービスの損失額を今回の事例に当てはめて試算すると最大でも8億円にとどまるため、生態系サービスの保護が経済的な利益を生み出すとはいえない。

 

・今回の事例において工場建設を中止すると、今後同様に工場建設の中止が相次ぎ、経済の停滞をもたらす可能性がある。過去の事例としては、アメリカが京都議定書の内容に沿って温暖化防止に取り組むと、240万人の失業者数増加が見込まれていた。

 

・500haの森林を開発したとしても、自然への影響は大きいものとはいえない。固有種についても、A県内の他の森林区域で保護すれば十分である。

 

・工場建設によって固有種の個体数が減少したとしても、事後的な取り組みによって回復は十分可能である。過去の事例としては、アメリカのハクトウワシの保護などがある。

所感


 今回はディベートストーリーを用いた普段と異なるディベートを行いました。A県の現状等についての情報が少ない中で、いかに具体的にA県の取るべき政策を示せるかが鍵となったといえます。実際の生態系サービスや固有種の例を挙げたり、その評価額を試算したりするなど、多くの班が明確な論拠をもとに議論を展開しました。このようにディベートにおけるデータの活用法の点で、得るものが大きいディベートでした。 

 ディベートでは、開発と生物多様性のどちらが大切であるかということが大きな論点となりましたが、実際には、どちらも重要であることは言うまでもありません。しかし、その両立を考えていく上では、その重要性の根源を知る必要があります。今回のディベートでは、開発と生物多様性の両者について、具体的な事例を用いた議論を進めることで、どのような点に価値があるのかを実感することができました。今回学んだ知識や論理をもとに、私たちが担う次世代の開発と生物多様性についても考えていかなければならないと思います。

文責 釋悟史