今回の定例会では、事前学習やグリーンサーマル株式会社代表取締役の滝澤誠様の講演会を通して学んできた「再生可能エネルギーと持続可能社会」というテーマのもと、ディベートを実施しました。「日本は従来型エネルギーから再生可能エネルギーに移行するべきである。」という論題に対し、肯定側、否定側に分かれて討論を行いました。
2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を受け、現在の日本の電力供給はその多くを火力発電に依存しています。二酸化炭素排出削減が国際社会に求められる中、増え続ける電力需要にどのように応えればいいのでしょうか。現在の世代も将来の世代も満足した生活ができる持続可能社会を理想とし、従来型エネルギーと再生可能エネルギーのそれぞれのメリット・デメリットを比較検討しながら、互いの案を主張し合いました。
○二酸化炭素の排出量が少なく、環境に良い
石油燃料を扱う従来型エネルギーと比べ、自然エネルギーを利用した発電を行う再生可能エネルギーの第一の特徴といえるのが、二酸化炭素排出量の大幅な抑制が可能な点です。再生可能エネルギーへの移行は、日本が二酸化炭素の排出量削減目標を達成するためにも欠かせない手段となっているといえます。また、この環境保護の効果が将来的に身を結ぶことにより、高価な開発費や建設費に見合うメリットが得られるのではないかという経済的な利益も視野に入れた案が提案されました。
○海外資源への依存の解消
日本は国内の電力自給率が5%と極端に低く、ほとんどの電力資源を海外からの輸入に頼っています。将来的な燃料の枯渇や原油産出国の政情の変化などによる燃料価格高騰の影響を受けることは避けられず、現在のような海外依存度の高い状況を早く脱却することが、今後の電力の安定供給には欠かせません。そのための対策として、石油や石炭、天然ガスなどの石油燃料資源をほとんど使わずに発電を行う再生可能エネルギーは、エネルギー自給率を高めるために有効的であり、今後推進するべきであるという意見が出されました。
○経済面の効果
再生可能エネルギーに移行することで、二酸化炭素の排出量の減少や、海外資源の輸入の軽減の他に、国内への投資の増加による日本経済へのプラス効果が生まれるという主張がありました。これらの総合的な経済効果が、再生可能エネルギーに移行するためにかかるコストを上回るのではないかという意見が挙がりました。
○不安定かつ不十分な電力供給
再生可能エネルギーのデメリットとして挙げられるのが、電力供給の不安定さ、発電効率の悪さ、そして開発及び建設コストの高さです。その発電方法の多くが自然現象に左右されることで、発電量を調節できる従来型発電に比べると、安定した供給は見込めず、発電効率も悪くなります。また、高い建設コストや開発コストを考えると、従来型エネルギーの方が現代及び将来の世代への負担を減らすことができるのではないかという主張が多く見られました。
○原子力発電の利用
発電効率の良さ、電力の安定供給、二酸化炭素排出の削減といった点を解消する従来型エネルギーのかたちとして挙げられたのが原子力発電です。これは、資源の輸入量と二酸化炭素の排出量が多い従来型の火力発電でもなく、また再生可能エネルギーでもない発電方法として挙げられた意見で、その発電コストの安さや原子燃料リサイクル技術の活用により、再生可能エネルギーの代替案として主張されました。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故以来、かつて唱えられていた「原子力安全神話」は力を失い、今回のディベートでもその安全性を懸念する指摘が相次ぎました。
○メタンハイドレードの推進
近年従来型エネルギーの新たなかたちとして注目を集めているのが、メタンハイドレードです。メタンハイドレードは化石燃料とは違い、日本近海に多く存在することが分かっています。火力発電をする際の莫大な燃料輸入量を減らし、日本国内でのエネルギー自給率の向上を見込むことができるという意見です。
原子力発電所の事故以来、国民の原子力発電に対する視線が厳しくなったことや、化石燃料の埋蔵量が限られていること、地球温暖化対策としての二酸化炭素の排出削減が求められているという現状で、再生可能エネルギーの更なる利用が推進されています。そうした中、再生可能エネルギーはどれだけ電力需要に応えながら、現在世代及び将来世代に負担を残さずに電力を賄えるかが問題となっています。再生可能エネルギー賛成側の班の立論で多かったのは、環境に良いからという意見や、資源の輸入に頼らずに国内で電力を供給することによる国内経済の活性化といった意見でした。それに対し、否定側の従来型エネルギーの維持を主張する班の中には、再生可能エネルギーにはコストがかかるという点やその発電効率の悪さ、そして安定供給の難しさなどに言及し、原子力発電やメタンハイドレードの推進といった案を提示するグループがありました。
最近、鹿児島県の川内原子力発電所の2号基が原子力規制委員会の審査を通過し、再稼働しましたが、未だに社会における原子力の危険性への警戒心は強いままだといえます。今後のエネルギー政策において重要なのは、需要に応える供給量とその安定性、そして発電効率でしょうか。それとも将来世代に負担を残さない持続可能性でしょうか。私たち、そして私たちの子孫たちも安心できる安全性でしょうか。おそらく理想とする「現在の世代も将来の世代も満足した生活ができる持続可能社会に必要なものは、その全てであると思います。そして、それらを再生可能・従来型の2つのタイプのエネルギーで賄っているのが現在なのでしょう。
ディベート終了後に全体で話し合った中では、再生可能エネルギーを推進したいという声が多かった一方、未だ発電効率も安定性も十分とは言えない再生可能エネルギーの将来に多大な投資をして賭けるのは不安であるという意見もありました。再生可能エネルギーのみならず、従来型エネルギーの今後の技術発展により、私たちのエネルギー政策に対する考え方も変わってくるかもしれません。
文責 今野